春が見せるみたいな朗らかな顔に、緊張に染まっていた手が緩む。
……心配していたことではなかった? ううん、完全に払拭は出来ないけど、取りあえず今は大丈夫みたいだ。
そう、説得するみたいな、宮寺先生の柔らかな笑顔だった。
通路から降りて、中庭のベンチに座った。
ここは校舎内からは死角になるけど、開けていて周囲に誰かいればすぐ気づく立地だった。
「あの華取さんと同じ苗字だし、字も一般的な『香取』じゃなかったから、賭けだったんだけどね。娘さんがいるのは知ってたけど、華取さん、娘には男は近づけないってスタンスだって聞いたから」
「………」
……流夜くんのよく言う娘バカが発揮されていたのだろう。今や教師に近づけちゃった父さんだけど。
そこで宮寺先生ははっとしたように肩を震わせた。
「も、もしかして今声かけちゃったのまずかったかな……華取さんに知られたら終生の嫌味を言われたり……」
「……宮寺先生?」
どんな心配をしている。在義父さんを慕っている人って、同時に怯えてもいない?
「あ、ああごめんごめん」
気をとりなおすようににこっと笑顔を見せた。
なんか……流夜くんの言っていたイメージと違う? 流夜くんは心底から警戒しているみたいだったから、もっと悪人っぽい人とか嫌味な人かと思っていたけど……。
なんだか素直というか、率直な人というか、毒気が抜かれる気がする。
「遅くなってしまっても申し訳ない。それこそ華取さんに何言われるか……」
一瞬怯えモードが入ったけど、すぐに顔を切り替えた。