笑満と遙音先輩が付き合っていることは、早々に先輩が公言したから、学内では公認になっていた。
話題が笑満に逸れたのを幸いに、軽くみんなに謝って、宮寺先生について歩いた。
行ってらっしゃーい、また明日―、と、やはりノリのいい反応だった。
宮寺先生は、本校舎から特別教室棟に向かう通路で足を停めた。
「急にごめんね?」
「いえ――」
警戒、する。なんで名指してきたのか。
「華取さんに個人的に話があって。……あまり人に聞かれていいものでもないと思って、引き止めちゃって」
「――――」
背筋を氷塊(ひょうかい)が駆けた。
人に聞かれて悪いもの、でわざわざクラスの子たちから引き離して――本当に、流夜くんのこと? ばれた? ばれている?
心臓は急く。耳に心音が響く。やばい、どうしよう、と、答えのない問いが頭で繰り返され、鞄の取っ手を摑む手が汗ばむ。
「華取さんって――」
「―――」
どうしよう、いつ? いつばれた? それとも見られた? 迂闊に流夜くんに近づいてしまったことは……ある。呼んでしまったことも。くそっ、自分の軽薄! ごめん、流夜くん――でも、
「華取さんって、お父さんは華取在義さん?」
「―――――え?」
驚きに開いた瞳には、少し焦った様子の宮寺先生が映る。
「あ、もし本当に警察の華取さんだったら、お父さんの職業は学内でも隠してるのかなって思って連れて来ちゃったんだけど……あれ、違ってた?」
「い――いえ、華取在義は父です」
「県警の?」
「は、はい」
「そっかー。よかった、あたってて。本当に華取さんの娘さんだったら、どうしてもお礼が言いたくて。や、お礼なんかじゃ済まないくらいたくさん助けていただいたんだけどね?」
「父を――在義父さんを、知ってるんですか?」
「うん。学生の頃とか、華取さんの警察って仕事以外でも色々お世話になったんだよ。今の遺伝子学に進んだのも、華取さんの影響あるんだ」
ふわっと、宮寺先生は微笑んだ。