「華取――さん。咲桜さん?」
宮司先生の一回目の講義が終わった日のことだ。
遺伝子学を主軸にした宮寺先生の講義は、進むにつれ私にはちんぷんかんぷんだったけど、笑満の興はそそったようだ。
頼は今日も眠そうで反応はないけど、このままでは終わらせない。教師の語る以上のものを得る奴だ。
私も、わけがわからないままでは終わらせたくない。
わからなかったことが予備知識がないせいなら、復習すればいい。
最終授業の時間にあてられたから、下校の時間にまだ宮寺先生はいたみたいだ。
帰るために還るために降りて来た職員室のある一階で声をかけられ――名を呼ばれ、振り向いた先にいたのが宮寺琉奏先生だった。
え、うそ――なん、で?
宮寺先生と個人的な面識はない。なのに、何で名前を呼ばれ、しかも顔まで割れている?
「あ、はい――」
やや警戒して、緊張した声で応えた。
「いきなりすみません。華取咲桜さん、だよね?」
確かめるような口調に、宮寺先生の方もはっきりとは認識していなかったのかと疑う。
「咲桜、宮寺先生と知り合いなの?」
間の悪いことに――それともよいことか、今一緒にいるのは笑満だけではなかった。
クラスの友人と、まとまって帰っていたところだ。
「華取さん、少し話したいことがあるんですけど、時間ありますか?」
問われて、私の視線は彷徨った。
視界の隅に笑満が肯くのが見えた。
「咲桜! せっかくあの宮寺先生と話せる機会なんだから言ってきなよ! あたし、遙音くんと約束してるし」
笑満が笑顔で、ぐいっと咲桜の背中を押す。反応したのはクラスメイトだった。
「笑満ってば、どうしたらあの最優秀の夏島先輩と付き合えるの?」
「夏島先輩に彼女いなかったってのも驚きだけどねー」
「二年の先輩とかから嫌がらせされたらうちらに言うんだよ? みんなで乗り込むから!」