在義さんの心配――かなりの嫌がらせもある気がするが――は、咲桜が昏い道を歩くことにもあるようだから、咲桜を出歩かせずに俺が訪れることで落ち着いた。
俺はそのまま吹雪のいる上総署へ行くので、夜を華取の家で過ごすようなことはない。
そして今日、在義さんに華取の家に呼び出され、話は俺にだけ、と言われた。
吹雪たちを松生に逢わせるために《白》へ行く話を先にしていたから、一緒に行けなくなったことに淋しそうな瞳をした咲桜を抱きしめるのは帰ってきたら絶対にしようと決めて送り出した。
……まあ、殴られる頃合いになったか。
在義さん――咲桜の父親に認めてもらえるなら、殴られても構わない。
在義さんとは、リビングの、前にも座った位置で話す。
……この前たたき起こされたときは床に正座させられたから、ソファを勧められただけマシだと思っておこう。
「……反対されますか」
「いや――前にも言ったけど、流夜くんなら別に反対することはないんだ」
「じゃあなんで逃げたんですか」
「………」
答えはない。
この前の在義さんに報告しようとしたとき、在義さんは龍さんのところにいたのではないかと睨んでいる。
「……他の者だったらもっと早くにゆるされていましたか」
「他の野郎だったらぶん殴って蹴り出している。金輪際、咲桜に近づけさせもしないよ」
在義さん、笑顔で辛辣に言い放った。蹴り……。
「………」
自分、自分でよかった……。己に感謝しつつ、冷や汗が出る。
「なんでだろうね――君なら咲桜のことも任せられると思うのに、なかなか心が落ち着いてくれない。……男親の悲哀とかいうやつなのかなあ」
「……吹雪や降渡でしたら、同じようにゆるされていた気がしますが」
「まさか。それはないよ。君が一番に知っているだろう――あの子たちの恋い得る人は揺らがない。だからこそ、春芽くんが選んだのは君だったんだろう」
「………」
確かに、あいつらの恋人とすきな人。一ミリも揺らいじゃいない。
「……三年だ。咲桜が生徒である時間はまだ三年もある。それでも君は咲桜を望むのか?」
「はい」
――今は、俺にも揺らぎようがなかった。
それを聞いて、在義さんは安堵か諦めか判別のつかない顔をした。
「……愛子の勝ちか」