「………」

タチが悪いタイプの天才? どこまですっ飛んだ話をし出すんだ、こいつは。笑満と顔を見合わせて、頼から行動している今は、動くに任せようと思った。

頼はため息まじり、どこか疲れたように、憑かれたように話す。

「バカな天才って言うのかな。惚れた女一人のために、世界の法理だって曲げられちまう人なんだ」

「……世界の法理? そんなものを曲げられるの?」

笑満が問う。

「フランス革命」

同じ音調で頼は言う。

「アメリカ独立戦争。ソ連崩壊、ベルリンの壁。世界の法理なんて時代で移ろう。近世だけでもいくつあるか――。そういったものの影に、表立たず暗躍する天才がいるもんなんだ、大体。そいつらは、世界を変えようなんて思ってない。大事に思ったもの一つを護るために起こした行動が、結果世界をひっくり返す。所謂革命によってその世界の法理は根底から覆る。『流夜くん』は、そういったタイプの危うい天才だ。――と思う」

「………」

なんだかとんでもない評価を受けている教師がいた。

規模が大きすぎて、私たちにはいまいちわからない。

一般人である私には。

「危うくて、険しい、ヒトやモノ。危険人物」

キケンジンブツ。

頼の口から出ると論文でも聞かされている気になる。

「――そういうのってさ、周りから迫害されることがある。出来過ぎた才能は疎まれ潰される。けど幸いなことにあの人には、天才ではないけど同種の秀才がいた。二人も。だから孤独もなく孤立もせず、出来過ぎた三人で通すことが出来ていた。淡泊に。……そういう奴って、愛情に目覚めたら敵なしなんだよ」

「………流夜くんは敵多いみたいだけど」

「敵は多いだろうけど、敵う奴なんていないんだよ。今のとこの問題の――宮寺琉奏は、あれは秀才になりたかった凡人だ。そして憧れた対象が天才だったために、その姿を模倣した」

――宮寺琉奏。目下のキケンジンブツ。