その私の名前を書いた婚姻届が入った手紙を壱成さんが開けたのは、それから数年後だった。もう私が高校を卒業してから2年がたっていた。
どうして高校卒業してからではなかったのか。

それは高校を卒業した後、結婚は私の年齢が20歳を過ぎてからというお父さんの言葉に、壱成さんは「分かりました」と返事をしていたから。


壱成さんが、当時、ラブレターと言っていた婚姻届の入った封筒を初めて開ける。「やっぱり佳乃の字は綺麗だな」と、私の字をなぞりながら壱成さんは呟く。


「ずっと開けたいと思ってくれていましたか?」

「そうだな、長かったな……。いや、佳乃といるとすぐに時間がすぎるから短かったのかもしれない」



壱成さんがボールペンを手に取り、私の名前の左側に〝立花 壱成〟という文字を書く。


「提出した後、結婚指輪を取りに行こうか」


そう言いながら、左薬指に婚約指輪がはめられている私の手を握った。


「…壱成さん」

「うん?」

「私、今日から立花佳乃になるんですね」

「ああ、気に入ってくれるか?」

「はい、とても」

「うん、ありがとう」

「あ、帰りにお母さんのところへ寄っていいですか?」

「ああ」

「良かったです、お母さんが近所の方からおすそ分けで野菜を頂いたみたいで、それを分けて貰えるので……」

「うん。──佳乃?」

「はい?」


壱成さんが、慣れたように身をかがめ、私にキスをする……。
キスをされたことに、照れてしまい、頬を染めていると、壱成さんが「佳乃」ともう一度私の名前を呼ぶ。
上を見上げると、長くなった私の髪を壱成さんが愛おしそうに撫でる。
短くても、長くても、「可愛い」「好み」と言ってくれる壱成さん。


「好きだよ」


優しく、抱きしめられながら耳元で呟いてくる
壱成さんに、また愛おしさが増えていく。


「わたしも、…100年たっても壱成さんが大好きです」


きっと、生まれ変わっても。