──夜、夜勤の休憩中の壱成さんに電話で報告してみた。お母さんとこんなことがあったと。壱成さんは『頑張ったな』と言ってくれたけど、壱成さんが背中を押してくれたから。
壱成さんがいなければ、私はこうして母ともう二度と喋ることは無かったと思う。


「そういえば、お兄ちゃんが引退おめでとうございますって言ってました」

『ああ、』

「あの、引退というのは?」

『卒業式みたいなもんだよ』

「そうなのですか?おめでとうございます。知らなくて……」

『いや、俺も言ってなかったから』

「なにか、プレゼントでも……。4月からバイトをしようと思うので……」

『いい、これからはあんたの将来のために俺が働くから』

「だめです、2人の将来ですから、一緒に頑張りましょう」

『……高校卒業してからじゃダメなのか?』

「私が働くのは嫌ですか?」

『嫌では無いが、……あんたが過労で倒れたって聞いたら……』


過労なんて。そんなもの、ないというのに。心配性な壱成さんにクスクスと笑っていると、壱成さんも自分自身に呆れたようにため息をついた。

壱成さんは、私に何も望まない人。


「……では、あの、プレゼントというプレゼントではないのですが、」

『うん?』

「お兄ちゃんが、そういう言葉を口にしまして」

『佳加?』

「提出するのは、ずっとずっと先ですが、」

『うん』

「私の名前が入った婚姻届を、壱成さんに手紙としてプレゼントするのはどうですか?」

『──……』


壱成さんは、言葉が詰まったように、声を出さなくなった。けれどもすぐに、『それは、』と、嬉しそうな声を出した。


「それは?」

『嬉しすぎるラブレターだな』


そう言った壱成さんの声は、本当に優しく、穏やかな声だった。