壱成さんの夜勤の日に、私は実家に帰ることになった。壱成さんがいないなら用心のために、お兄ちゃんが「1人は危ないしその日に戻ってきたら?俺もいるし」と言ってくれたから。
壱成さんにその事を言うと、「俺もその方がいい」と了解を得た。

そんな壱成さんが夜勤の日の、夕食と夜食分の壱成さんのお弁当を作る。お弁当を見れば、思い出すのはやっぱりお母さんの顔だった。
毎日毎日、お弁当を作ってくれていたお母さん……。

お弁当をお弁当袋に入れて、箸も2食分入れた。
今日はお母さんと会う。実家に帰るのだから、会うのは当然で。そんなお弁当袋を見て、エプロンも外さずぼんやりとしている私に、壱成さんが近づいてくるのが分かった。


「どうかしたか?」


どうかした、これはどうかしたに、入るのだろうか?


「…壱成さん、私、お父さんとの仲は解決したと思っているんです……壱成さんとの仲を認めてくれましたから」

「……母親の事か?」

「はい、私は母と会話をしてません……」

「うん」

「……これから先、会話ができるのかなって」

「うん」

「時間が解決をしてくれると思いますか?」


これから、実家に帰ることがあれば。


「それは、俺からは何とも言えない。俺は佳乃が大切だから、佳乃が怖いなら解決しなくていいと思う」


しなくていい……?


「けど、佳乃が優しくていい子なのも知ってる」

「……壱成さん」

「本当は、母親と仲直りしたいと思っているのも分かってる」

「……どうすればいいか分かりません」

「時間がたっても、解決できないことはある」

「……」

「本来なら、俺だって、あの時話しかけなかったら佳乃と付き合うこともなかった。時間がたっても、俺が片思いなのは変わらなかった」

「……」

「時間が経っても、変わらないものもある」

「……」

「俺の気持ちだってそう」

「……気持ち?」

「時間が経っても俺の気持ちは……」

「……」

「100年経っても、気持ちは変わらない。ずっとずっとあんたが好きだ」

「……壱成さん」

「誰かが行動しないと、時間だけが過ぎて何も変わらない」

「……」

「だから、佳乃の母親とも、どっちかが行動に移さないとこの関係は変わらない」

「……」

「時間が解決するのは、もう忘れてもいいという気持ちが強くなるんじゃないか?」


忘れてもいい気持ち……。
簡単に言えば、母親に対しての気持ちを忘れてしまうということ。


「……そうですよね、」

「けど、第1に考えるのは自分のことだから」

「……はい」

「時間が経つことに逃げてもいい、という気持ちも、大事な事だからな」