自室に戻り、まだ着信が入っていないスマホを手に取って、壱成さんに電話をかけてみた。壱成さんはお父さんと何の話をしたの?
お父さんは壱成さんに失礼なことを言ってない?壱成さんとお父さんは、どこに行ってたの?


『…──佳乃?』


電話はすぐに繋がった。私は壱成さんの声が好き。壱成さんの声はとても温かいから。


「父が、帰ってきました」

『ああ』

「……」

『大丈夫、あんたが心配することは無い』

「……壱成さん」

『あんたのことを話して、家まで送ってもらった』


家まで……?
お父さんが、壱成さんの家まで?


「……どのような話を……」

『殴りたいかって』

「え?」

『あんたの父親に、俺を殴りたいかって聞かれた』


──殴りたいか?
お父さんを?
壱成さんが?


「な、なんて答えたのですか」

『殴りたいって答えた、嘘はつけなかった』

「……」

『そこからは、佳乃の話』

「…はい」

『結果的には、許してくれた。けど、週に一回は必ず顔を見せに来るようにとも言われた』

「それが、お父さんが言ってた約束ですか?」

『うん?』

「言ってたんです父が。約束を破ると家に連れ戻すと」

『ああ、それもあるけど、また別の話』


別……?


『一緒に住むなら、そういうこともなるだろうから』

「……そういうこと?」

『佳乃には手を出すなと』


……手?


「手を上げるな、ということですか?そんなの……壱成さんは私に暴力なんてしないのに……」

『そうじゃない』

「え?」

『卒業するまでは、……その、なんだ、万が一のことがあるから子供を作る行為はするなど』

「……子供?」

『セックスはするなって、その約束を破ったら佳乃は家に連れ戻すって言われた』


性行為をするな。それが、壱成さんとお父さんとの約束?


『……あんたの高校、卒業までは』


私の、高校卒業までは。
つまりあと2年間……。
壱成さんと私は裸で抱き合うことは無い、清いお付き合いをするということ。
一緒に住みながらも。


「……壱成さんは、その約束になんて答えたのですか?」

『守りますって、答えた』

「……それは、」

『うん?』

「これからあと2年、壱成さんとキスもできないということでしょうか?」


クスクスと、壱成さんの笑う気配がした。


『それはする、これからは毎日しよう』