夢、夢と言うなら私だって。
あのお母さんとお父さんと暴力が無くなるきっかけを作ってくれたのは、壱成さんだから。


「ひかないか?」


穏やかに聞いてくる壱成さんに、ひくはずがなく。


「ひきません、…だって、ずっと私を好きでいてくれたってことでしょう?とても嬉しいです」


そう言って指先の力を少しだけ強めれば、壱成さんの指の力も強まり、重なっていた手はしっかりと握られた。


「良かった」

「私の方こそ、壱成さんと出会って、夢みたいです」

「…ありがとう、そう言ってくれる優しいあんたが好きだ」


がたん、ごとん、と電車が揺れる。
このまま帰らず、ずっと一緒にいたい。それでも電車は最寄り駅につくから。
壱成さんと2人で電車をおり、順番で改札を通り、街に出る。一旦、改札で離れた手は、道に出るともう1度繋がった。


「壱成さん、あの」

「うん?」

「一つ、私のわがままをきいて頂いてもいいですか?」

「ああ、なんでも」

「誰かに壱成さんを紹介するとき、壱成さんのことを彼氏だと紹介してもいいですか?」


大好きな壱成さんは言葉を詰めらせたけど、直ぐに恥ずかしそうな顔をして「ああ」と、言ってくれた。