干して乾いた制服を来た。ブランケットと山本さんのパーカーを袋の中に入れた。これは私が使ったもので、洗濯をしなければならないから。

帰りも、タクシーだった。壱成さんにお金を返さなければならない。またお礼の品物を用意しないといけない。それを壱成さんに伝えなければならない、のに。私の口からはそれが出てこない…。
静かなタクシーの中で、壱成さんが口を開いた。


「あの髪留めは、あんたのために買ったものだ。使ってくれ」


罪悪感で使ってないことを壱成さんは分かっていた。頷いて返事をすれば、壱成さんの口角が笑うのが分かった。
そんな壱成さんを見つめていれば、壱成さんのスマホが鳴り、壱成さんがそれを確認した。
その画面を見て眉を寄せた壱成さんは、何も返事をせずその画面を閉じた。


「……何かありましたか?」

「いや、」

「……」

「あんたが親を大事にしてるのは分かった」

「……」

「俺はあんたの親には何もしない」

「…はい」

「それでも、」

「……」

「万が一、あんたが泣くことがあれば…」

「……」

「俺がいつもそばにいることは忘れないでくれ」



タクシーが家の前に着く。家の前について見つけたのは、普段着姿のお兄ちゃんだった。私たちを待っていたらしい。
タクシーをおりた壱成さんに、お兄ちゃんが深く頭を下げた。


「ありがとうございました、」

頭を下げながら言ったお兄ちゃん。


「両親は?」

「中に」

「……」

「まだ警察を呼べと騒いでます」


お兄ちゃんの言葉に目を見開いた。まさか、壱成さんを?壱成さんに何かするつもりなの?


「そんな、私が、私が悪いの……。みんなを巻き込んで……」

「大丈夫、あいつらは呼ばない。呼んで困るのはあいつらの方だ」


呼んで困るのは……。その言葉に視線を下げた私は、頭を抱えた。


「圭加」


壱成さんがお兄ちゃんの名前を呼んだ。
お兄ちゃんはそれに頷くと「分かってます」と、また頭を下げ。
袋を持っている私も、壱成さんに頭を下げた。