壱成さんと次に会ったのは、また、図書館だった。1週間後の土曜日。その日の壱成さんも勉強をする私の離れたところで雑誌を読んでいた。
会話は帰りの、私の家の最寄りのコンビニに行くまでの途中だった。
「送って頂き、ありがとうございました」
「いや、楽しかった。ありがとう」
「いえ、こちらこそ…」
「これ、良かったら受け取ってくれないか?」
そう言った壱成さんが、上着のポケットから何かを取り出した。それは小さな紙の袋で。可愛い花柄の紙の袋だった。
プレゼント用にラッピングされているのか、その袋にも可愛らしいテープが貼られてあって。
「あの、これは?」
「この前のお菓子の礼というか」
「え?でも、あれは……」
「受け取ってほしい、勉強の時に使ってくれたらと」
受け取ってほしいと言われても。
でも、この前の菓子折は、壱成さんが介抱してくれたからというお礼なのに。
「髪留めなんだが」
「髪留め?」
「黒くて細長い、ヘアピンってやつ。俺は使わないから、貰ってくれると助かる」
そう、言われても。
確かに髪留めは女性が使うものだけど。
「一応、調べて買ったんだが…」
「調べて…?」
「チタンでできてる。アレルギーになるのは稀らしい」
私の為に買ってくれた髪留め……。
チタン、チタンって。
私も調べたことがある。普通に買えば、ヘアピン1本、約1000円の代物のはず。
「でも、アレルギーが出たら絶対に外してくれ」
そう言われたら、受け取るしか出来なくて。
一定の食べ物が食べられない私に、考えて買ってくれたものなんだろう…。
「…ありがとうございます…すごく嬉しいです」
「よかった」
〝ごめんなさい〟、壱成さん……。
〝嘘〟をついて、ごめんなさい……。
私は壱成さんに沢山〝嘘〟をついている。
家について可愛らしい紙の袋をあければ、数本のチタンでてきているらしい髪留めと、壱成さんが書いたらしい手紙が入っていた。