「話?」
「はい、その……私も壱成さんと親しくなりたいと思っているので……」
私の言葉に、壱成さんは前を向き。
前を向いたから、背丈が違う私からは壱成さんの顔が見れなくなって。
己の手のひらで自分の口元を隠した壱成さんは「……うん、」と、小さな声を出した。
図書館からコンビニまでは約15分ほど。その間、壱成さんと沢山話をした。
そこで壱成さんは、お兄ちゃんと一緒の西高校に通っていることを知った。
予想していたものの、あまりお兄ちゃんが学生服を着ている姿を見なかったから確信が持てなかった壱成さんの高校。
「では、壱成さんは兄と同じ高校なのですね」
「そうなのか?」
「はい、今は2年生です。だから壱成さんと1学年違うことになります」
「……そうか、じゃああんたのお兄さんと会ったことがあるかもしれないな」
「そうかもしれません、ですが兄はあまり、学校に行ってないんです。制服姿もあまり見たことがなくて」
「うん」
「兄も、すごく優しいんですよ」
そう言って微笑んだ。
「親は、あまり家に帰らず遊んでいる兄をよく思っていませんが、本当に優しい兄で……私は大好きなんです」
「うん」
「壱成さんにはご兄弟がいらっしゃるんですか?」
「いや、1人」
「そうなのですね。弟か、妹さんがいると思ってました」
「そうか?」
「はい、失礼な言い方になるかもしれませんが、壱成さんはしっかりしていますから…」
「しっかりしてるのはあんたの方じゃないか?あんたは頭がいいから」
「勉強は……、親が厳しいので……」
「ああ、なんとなく、そういうのは気づいてた」
気づいた?
親が、厳しいことを……。
「けど、この前アレルギーのことを話してくれただろう?」
「……」
「食事とか、あんたのことを考えてる良い親だと思った」
私のことを考える良い親……。
「はい、」
「……」
「私のことを考えてくれる、両親です」
そう言って笑った私に、壱成さんも笑っていたような気がする。
────コンビニにつき、壱成さんと別れ際、壱成さんは「電話をする」と、呟いた。
低い声だけど優しい声。
威圧感なんてひとつもない声。
「はい」
「気をつけて」
「はい、今日はありがとうございました」
「佳乃」
──佳乃──……
「はい?」
「もし、何かあったらいつでも連絡してくれ」
「え?」
「貧血でもなんでも、あんたの事ならいつでも駆けつけるから」
「──壱成さん……」
「また夜に」
壱成さんに頭を下げ、家に向かって……
壱成さんが気になる私は後ろを向いてコンビニを見た。まだそこには壱成さんがいる。
曲がり角で、もう一度振り向いてみた。
私を見送ってくれるらしい壱成さんに頭を下げる。
家につけばまだ4時にもなっていなくて。
あと15分、壱成さんと話をしたかったと少し落ち込みながら。
私はリビングの中で、16時10分になる時計をずっと見続けていた。