「渡したいものって?」


言ってもいいのだろうか。壱成さんはいらないと言わないだろうか?でも1度、壱成さんはピンク色の紙袋のお菓子を受け取ってくれてるから。


「……お礼のお菓子を」

「お菓子?」

「はい……」

「…気持ちは嬉しいが、受け取れない。それに俺はもうお礼は貰った」


受け取れない、どうして?
この前は受け取ってくれたのに?
貰った?
いつ?
私はまだ壱成さんに渡していない。
戸惑いながら壱成さんを見つめれば、壱成さんは私が渡した封筒を胸の位置の高さに持ってきた。


「その、なんというか、気分を悪くしないでほしいんだが」

「…え?」

「俺はあんたの言葉だけで十分と言うか」

「…言葉ですか?」

「物よりも、手紙とかの方が嬉しい」


手紙…?
言葉…。
手紙が、お礼の品物っていうこと?
手紙の方が嬉しい…。


「私の手紙ですか?」

「手紙とか。毎日少しでも連絡が取れたらなって思ってる」

「毎日、手紙を書くのがお礼ということですか?」

「いや、…なんつーか、電話でもなんでも」

「…電話…、お礼で電話をすれば、壱成さんは嬉しいのですか?」

「お礼というか、……言い方が難しいな。」


難しい?


「明日、お礼のお菓子を貰ったらそれで終わるだろう?」


終わる?


「あんたとの関係が」


私との関係?


「あんたとはこれからも、親しい仲になれればいいなと思ってる」

「親しい仲、というのは友達という意味ですか?」

「そう思ってくれていい」


私と壱成さんが友達?
元々、助けてくれて知り合った壱成さん。
あの傘の出来事が無ければ、知り合うこともなかった男性。
そんな壱成さんは、私と友達になりたいらしい。


「…分かりました、今日の夜、連絡します」

「いや、俺からする」

「壱成さんから?」

「ああ」

「……分かりました、」

「都合の悪い時間があれば教えてくれ」

「あの、壱成さん」

「うん?」

「電話などがお礼ということは、明日の朝は会えないということですか?」

「え?」

「その、菓子折を渡す予定だったので、明日も壱成さんに会えると思っていたんですが、」

「……」

「会えないのでしょうか…?」

「……」

「……私、会えると勝手に思っていたので」

「……いや、」

「…菓子折を持ってきてはいけませんか?」

「……」

「…わたし、」


ゆっくりと壱成さんを見上げれば、壱成さんは戸惑っている顔はしていなかった。ただ、私の方をじっと、見つめていて。
だけど、私と視線が合えば、その瞳は私からそらされた。


「会ってくれるのか?」

「え…?」

「いや、なんだ…すげえ嬉しい」

「……」

「…俺も会いたい」


そう言った壱成さんの顔はよく見えなかった。