そんな事を思いながら、夜、体調を取り戻しつつあった私は、自室の机で勉強していた。今日は連絡が無いだろうなと思っていた私は、少し落ち込んだ気持ちになりながらシャーペンを握りしめていた。
なんだか、スマホが気になって集中できない……。こんなことは今までになかった。勉強が疎かになるからと、SNSなどは禁止されている。
本当に、私がスマホを触るのは連絡手段だけだった。みんながやっているらしいLINEというアプリも、私はやっていなかったりする。
本当に今までスマホを気にしたことなんてなかったのに……。
こんな気持ちじゃダメだ、勉強しないとと、もう一度参考書に目を通そうとした時だった。
スマホが震えたのは。
肩がビクッと動き、もう鳴ることはないと思っていたスマホが鳴り、びっくりした私は慌てて画面を見つめた。
そこには登録されてない番号からの着信画面に鳴っていた。このスマホには、登録されている人からしか電話なんて来ないから。
この電話番号は間違いなく、壱成さんで。
嬉しい気持ちと、緊張で、一瞬にして手汗が滲むのが分かった。
駅員の人、渡してくれたんだ……。

「も、もしもし、……」

そう言った私の声も震えて、凄く小さかった。

『────…俺、』

壱成さんの声も少し小さかった。それでもその声は壱成さんだとすぐに分かった。低い声だけど優しさが含まれている声は、間違いなく壱成さんだった。

「……壱成さんですか?」

本人だと分かっているのに、確認してしまい。

『ああ、その……手紙受け取った』

「はい、あの……、すみません。この前は……」

『もう大丈夫なのか?』

「…はい」

『そうか、あんたが元気になったなら良かった』

穏やかなその声に、少し、緊張が解けたような気がして。

「あの」

『うん?』

「会えませんか?」

『え?』

「壱成さんに会いたいです」

え、と、また壱成さんの驚いたような、戸惑った声が聞こえたような気がして。

『俺に?』

「はい」

『……』

「すみません……壱成さんの都合も聞かずに……」

『いや、大丈夫。会いたい。俺もずっとそう思ってた』

その声のトーンが優しく、きっとスマホの向こうでは、壱成さんは笑っているだろうと思った。

「私に会いたいと思ってくださったのですか?」

『そうだな、──今からでも』

今から?時計の時刻は午後の21時過ぎ。
私に会いたいと、壱成さんが──……私に…。

「すみません……、あの、夜は家から出れそうになくて……」

断るのが辛かった。

『うん』

「朝、でも、よろしいでしょうか?」

『朝?』

「もしくは、土日の、お昼……」

土日は、お母さんたちに〝図書館で勉強する〟って嘘をつけば……。

『どっちの方があんたと早く会える?』

「え?」

『短い時間でも、あんたと会えるなら嬉しい』