亜里香は、雄輝と二人で虎ノ門家の本家に来ていた。

目の前にいるのが、雄輝の父で、現虎ノ門家当主、虎ノ門 雄大(ゆうだい)と、

その妻、虎ノ門 優莉(ゆうり)、そして雄輝の妹の真輝(まき)である。

虎ノ門家に娘がいることは知られていなかったので、亜里香は驚いたが、

まだ中学生の真輝はとてもかわいらしい。

「お初にお目にかかります。相良 亜里香と申します。」

亜里香は畳に手をつき、丁寧にお辞儀をした。

「あら、そんなにかしこまらなくていいのよ。」

優莉が優しく言う。

「お兄ちゃん!どこでこんな美人見つけたの!」

目をキラキラと輝かせる真輝に亜里香は苦笑いを返した。

「あたしよりも、真輝ちゃんのほうが断然かわいいよ。」

「いや、亜里香の方が可愛い。」

雄輝が亜里香の頭をなでながら言った言葉に、3人は目を丸くした。

「あら、今まで誰かに可愛いなんて言わなかったのに。

すごい変わりよう。」

「パーティーに出て、女子に取り囲まれても、にこりともしなかったのにな。」

雄大も同意する。

「雄大、人のことは言えないでしょう。

私や真輝がいなけりゃ、ずっと誰かをにらむような目つきをするらしいじゃない。」

「気のせいだ。」

「違うわよ。楠本さんが、私が風で出なかった時のパーティーのビデオを見せてくれたもの。」

「あいつか・・・!」

シメてやろうかなどとブツブツつぶやく40代には見えない雄大の膝を、

真輝がパシッとたたいた。

「お父さん!何やってんの!せっかくお兄ちゃんが花嫁さんを連れてきたんだから。」

「いって!…はいはい、楠本をシメるのは今度にするさ。

あ~、それから雄輝、虎谷(こたに)との婚約は白紙になる。

きょう呼んだんだが…まだこないのか?虎松(とらまつ)。」

待っていましたとばかりに、襖があいた。

「失礼します。虎谷家の沙希(さき)様がおいでになりました。」

「通せ。」

「失礼いたします。」

凛とした声とともに、とても美しい大学生くらいの女性が入ってきた。

「虎ノ門ご当主様、お呼びでございましょうか。」

「ああ。雄輝に花嫁が見つかった。申し訳ないが、婚約は白紙とする。」

「まあ、それはよろしゅうございます。花嫁とは、こちらの方ですか?」

沙紀が、亜里香の方を示していった。

「そうだ。」

すると沙紀は、深々とお辞儀し、丁寧にあいさつした。

「花嫁様、お初にお目にかかります。

虎谷家の沙紀と申します。以後、お見知りおきを。」

亜里香もあわててお辞儀を返した。