屋敷につくと、ドアの前で彩海が待ち構えていた。

「鬼澤 華子様がお見えです。」

「鬼澤華子?ああ、噂の。」

彩海は申し訳なさそうに眉を下げた。

「なにかあっては大変ですから、まだご帰宅ではないからと、

お帰りいただこうとしたのですが、亜里香様のご帰宅までお待ちになると言って、

今は応接室でお待ちいただいております。」

亜里香ははあっとため息をついた。面倒なことになりそうである。

「わかったわ。荷物、おいてきてくれますか?

直接行きます。待たせない方がいいと思うから。」

「かしこまりました。ですが、お召替えになってからの方がよろしいのでは?」

服装にいちゃもんをつけてくるかもしれない、と彩海は思ったのだった。

「何をしたって、何かしらの文句を言ってくると思うから、

大して変わらないと思う。」

「かしこまりました。」





応接室に入ると、優雅に紅茶を飲んでいる、

いかにも自己中そうな女が座っていた。

鬼澤華子である。後ろに控えているのは、執事であろう。

「失礼いたします。」

「あら、あなた?相良 亜里香ってのは。

わたくしの前に座るのに、制服のままでいいとお思いで?」

予想通りの反応だったので、亜里香は冷静に答えた。

「お待ちいただいているのですから、一刻も早くこちらに参る方がよいと思いましたので。」

「フン。まあいいわ。あなたには、わたくしに忠実な者が忠告に行ったはずだわ。

それでものこのこわたくしの目の前に現れるのね。」

亜里香は笑った。

「忠告といえば、あたしからも警告をしたはずです。

聞いていらっしゃらないのですか?」

「何の話かしら?わたくしには怖いものなどありませんもの。

伝える必要はないと、判断したのでしょう。

そんなことはどうでもよろしいんですの。

なぜ、雄輝様のおそばにいるのが、あなたのような下賤のものなのです?

誰が考えても、わたくしの方がふさわしいに決まっていますわ。」

亜里香は再び笑った。

「なぜです?」

「わたくしをお笑いになってただで済むとお思いで?それに、なぜって、お分かりにならない?

あなたなんかよりも、わたくしの方がはるかに、家柄もルックスもよろしいじゃあございませんか。」

亜里香はまた笑った。家柄がいいのは認めよう。

だが、ルックスに関しては、亜里香はじぶんがかわいいとは微塵も思っていなかったが、

華子はそんなにかわいくないし、化粧もけばけばしい。

亜里香の自慢の親友、美紗の方が何倍もかわいいのは、一目瞭然である。

「ルックスもかんがみられるのであれば、あたしでも、あなたでもない、

とってもおきれいな方が今ここにおられるはずです。

あなたやあたしでは、見当違いというものです。」