俺は言葉もまなく車を走らせ、道沿いにあったドラッグストアで医者に教えてもらった大人用のオムツと、アルコール消毒剤、それから手袋を購入した。それから一時間もかからずに、親父の暮らす一軒家に到着した。

 数年振りの実家は、記憶に残されている以上に古びていた。室内には物がひしめきあい、隣接している彼の自営の店の、機械修理工場の道具や商品も積み上げられていた。廊下や台所にはビール缶も転がっていて、とにかく室内は小汚かった。

 今の親父は、自分の意思で排泄も出来なくなっていたが、尿意の感覚はあるらしい。帰宅早々に「トイレ」と呟き、慣れないようにオムツを自分で取り出したのを見て、俺は無言で肩を貸し、彼をトイレまで連れて行った。

 親父は、今にも吐きそうな咳をしながら、長い間トイレにこもっていた。俺は苛々しながら、散らかった部屋のゴミを大雑把に片付けた。

 冷蔵庫の中には食材がある程度は揃っていたが、食卓にはハサミやお茶パック、煙草の箱などが散乱していた。お粥のパックが大量に積まれていて、しばらく親父がお粥生活を送っていた事が分かった。