テーブルの上は、空の銀色の皿、一色だ。焼肉バイキングはお残し厳禁だから、当然のことなのだが、年頃の女子高生2人で平らげたにしては多すぎる皿の数だ。

 「ふー。いっぱい食べたね。」

 「もー、今日はまんぷく金太郎だよ。」

 「金太郎ってなに?」

 ツレのサラはたまに変なことを言う。サラの家ではすごくお腹がいっぱいなことを「まんぷく金太郎」と言うそうだ。サラ語はなんか不思議だけど、すっと納得してしまう甘さ温かさがある。
 ぶー! とテーブルの上のブザーが鳴った。2時間の食べ放題が、あと10分で終わる合図。
 サラも私も、カバンからおそろいの長財布を取り出し、千円札を用意する。

 「先月はウチが1枚だったから、今日はミホが1枚でいいよ。」

 「そう? ゴチになりまーす。」

 料金は、1人1,500円。いっぱい食べて、飲んで、話して。それでこの値段は破格だと思っている。だから毎月、お互いのお小遣いが入ったら、ここで焼肉ランチをするのが定番になっていた。2人だと3,000円だからどちらかが2,000円、もう1人が1,000円払うというのを交互に繰り返していた。

 「お会計、2,000円になります!」

 「え? 1人1,500円じゃないんですか?」

 「いまキャンペーン中で、500円引きなんですよ〜。また来てくださいね。」

 レジで出せなかった英世をサラはずっと握っていた。1人1,000円だとしたら、帰ってきた英世はサラの英世だ。

 「ねえ、お財布にしまったら? サラのでしょ?」

 私のお小遣いは月5,000円。サラはいくらもらってるか知らないが、高校生に1,000円はそれなりに大金だ。ペラッと1枚待っているのは危ない。

 「うん。でも、この1,000円でミホともっと楽しみたいんだ。」

 「…?」

 よくわかってない私の手をつないで、サラはスタスタ歩いて行った。
 右手に英世、左手は私。

 「ねえ、手。」

 手をつなぐのは、初めてだった。友達同士手をつなぐのはよくあることだが、「余計なウワサは立てられたくない!」とサラがこばんでいた。

 「うん。いいの。今日はつなぎたい気分。」

 何度も強く握ってくるサラの手を何度も何度もにぎり返した。にぎるたびにサラがふふっと笑うのがかわいくて、ずっとそうしていたかった。

 その後、結局2人きりでカラオケに行った。店を出たのは夜9時前。到底おつりの英世では足りず、私はお小遣いの半分もつかってしまった。男の子とお付き合いしていたら、こんなことが毎月のようにあるんだろうな、とサラの歌声を聞きながら目が潤んだのはナ・イ・ショ!

 その後、ミホに生理が来ることは、なかった。