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「すごっ…、はる、すごいな」


まるでおとぎの国のようだった。
見渡すかぎりの、7色に光るイルミネーション。
住んでいる県をまたいで、1泊の旅行に来ていた。
今日はクリスマスではないけれど、クリスマスツリーのイルミネーションが有名なここは、夜の時間だけどカップルや家族が多かった。

7色の光を見て、何度も「綺麗だな…」と、嬉しそうにする乙和くんを見て、私も笑った。


「うん、綺麗…、来てよかった…」


まるで、目に焼き付けようと、ずっとずっと綺麗なイルミネーションを見続ける乙和くんが、とても愛おしく、悲しかった。


乙和くんは思っているのだろうか?
〝もしかしたら、最後に見るイルミネーションかもしれない〟と。


「…とわくん」

「ん?」


乙和くんの優しい顔が、私に向けられる。
夜だから、色つきの眼鏡をかけていなく。
イルミネーションが反射して、乙和くんの頬が7色に変わっていた。


「私…いろいろ勉強したの…」


乙和くんの病気のこと。
失明した人の体験談…。
目が見えなくなって、困ること…。


「それでも、乙和くんに、すごく失礼なことを言っちゃうかもしれない…」

「…うん」

「ごめんね…」

「そんな事ない、俺は本当に、はるがそばにいるだけで嬉しいから」

「乙和くん…」


乙和くんは診断されてから、バイト先で失敗してはいけないと、迷惑をかけてはいけないからと、バイトをやめたらしい。


それでもやっぱり、目が見えなくなるという怖さや、私と別れた事の悲しさで、何もしたくなく働くのが苦痛になった…と、教えてくれた。


私がそばにいることで、その苦痛は軽減されているのだろうか?

まだ、私に気遣いがある彼…。



「もし、はるの目が見えなくなっても、はるの耳が聞こえなくなったとしても、俺ははると同じ道を選んでた。絶対はるを手放したりしない」


反対の立場でも…
目や、耳が聞こえなくても…。



「知ってる?乙和くん、本当の愛の話…」

「え?」

「本当の愛は、目の見えない男性と、耳が聞こえない女性から生まれるんだって……。そういうの、前に読んだことがあって」

「…」

「その時は、どうやってコミュニケーションをとるんだろうと思ってた。男性が喋っても女性は聞こえない…。女性の人が紙に文字を書いても、その人に見えないんだから…」

「…」

「でも、今なら分かる気がする…」

「…」

「そばにいることが幸せ…、それだけで幸せなの。…大事なのは言葉で気持ちを伝えるだけじゃない……」

「…」

「私も……、乙和くんのそばにいるだけで幸せだから…」

「…はる…」

「……乙和くんも、同じ気持ちなら、これって本当の愛になるのかな?」


乙和くんの目尻には、少しだけ涙が浮かんでいた。涙脆い乙和くんの涙も、7色に光る。


「はる…」

「うん」

「本当は、ずっと躊躇ってる……」


知ってるよ、
…乙和くんは、優しいから。


「俺のせいではるに苦労はかけたくない…」

「うん」

「はるが、もしかしたら影で泣くかも、って思うと…」

「うん」

「はるの親も、きっと反対する…」

「うん」

「俺のせいでって…」

「…うん、」

「はる」

「だけど、乙和くんは、もし見えない私が苦労かけても、私のことで泣いても、乙和くんの両親が反対しても、全部全部私のせいでも、そばにいてくれるでしょう?」


乙和くんの目から、透明な涙が流れていく。

乙和くんは何も喋らなかった。

ただ、静かに泣いていた。



「はる……」


優しい瞳が、私を見つめてくる。


「俺…、」


ゆっくり近づいてきた乙和くんは、私の額に、自身の額を当てた。


「見えなくなったら、…どこにいるか、分からないときも、…はるの名前呼んでいい…?」


涙声の乙和くんの声をきけば、私の方も、目の奥が熱くなった。


「…あたりまえだよ…」

「…いっぱい呼ぶよ?」

「いいよ、いっぱい呼んで…、呼ばれると嬉しい」

「ずっと探すよ…」

「そばにいるから、絶対に見つけられるよ…。探さないと許さないよ…」



涙腺がゆるみ、私も静かに涙を流せば、乙和くんの指が涙をふき、視界がクリアになった。


「はる…」

「うん」

「はる」


乙和くんの、大好きな乙和くんの顔がそっと、下へと向かう。
そのままゆっくりと、唇同士がふれあった。


「はる、」

「うん」

「はる」

「うん」

「はる…」


何度も何度も名前を呼ぶ乙和くん…


「いるよ、ここに。そばにいるよ…」


そう言って私からキスをしようと、顔を上げようとすれば、






「──……愛してる」


本当の愛の、愛の言葉を呟いた乙和くん…。



そんな彼を抱きしめれば、「ありがとう…」と、泣いているのに、嬉しい感情がこもってる呟きが耳に届いてきた。