回復することは無い…。

1度、無くなった視野は…。

視野が狭くなっていく病気……。

失明してしまう病気…。


乙和くんは、落ち着いた声でつげる。


その病名を。


〝網膜色素変性症〟


1回だけでは、覚えられないほど難しい呼び名。


「指定難病なんだってさ」


指定難病……。
乙和くんは、笑っていた。


「さっきもいったけど、50パー遺伝の病気。けど身内に同じ病気のやつはいないから…。俺の場合は遺伝じゃないみたいだけど…よく分かんね……」



子供が好きな乙和くん。
自分の子供と、キャッチボールをしたいと、言っていた…。


「目がもし、ずっと見えていても、はるを傷つけるのは分からない……。俺ははるに、家族を作ってあげられない…」


家族を作れない…。


「……はる?」


優しく頭を撫で続ける、大好きな人…。


「はるは俺といると、ずっと泣く羽目になるよ?」


泣く羽目に…。


「それでもはるはいいの?」


それでも、私は……


顔をゆっくりとあげ、乙和くんを見つめた。別れる時、ずっと私の顔を、焼き付け、忘れないように見ていた男……。


いいって言ったら、乙和くんは迷惑をかけると言って、否定するんだろうな…。


「…とわくんは、」

「うん」

「とわくん、」

「うん」

「いま、話してくれたから…」

「…うん」

「わたし、とわくんと、向き合っていいの?」

「はる…」

「ずっとそばにいてもいいの……?」

「……」

「もう、壁はなくなったって、思っていいの…?」



なくなったのなら…。

乙和くんが、私を受け入れてくれたのなら。


「…ずっと一緒にいるよ、当たり前だよ…」


だから。


「私がもう、乙和くんを泣かせない…」


泣かせないと、言ったのに。
私の言葉に、じわじわと涙を浮かべる乙和くんは、私の顔を見続ける。


「大好きだよ…」


愛の言葉を呟けば、今度は強く、乙和くんが〝離さない〟とでもいうように、骨がなりそうな程抱きしめてきた。
それでも痛いとは思わなかった。
乙和くんの心の中はもっともっと…痛い…。


「ばか…」


私に悪口を言う彼だけど、そのトーンは優しかった。昔の乙和くんだった。


「乙和くんも、私を泣かせないで…」

「ばかだよ…」

「つぎに、別れたいって言ったら、ずっとずっと泣くからね」

「俺のとこに帰ってきても、泣く羽目になるよ」

「ならないよ…」

「なる…」

「だって乙和くんが大好きだから…」

「…っ、」

「大好きだよ……」

「…はる、」

「──…教えてくれてありがとう…」