近くの公園のベンチに来た私は、狭川くんが誘導してきたそこに腰かけた。
狭川くんが公園内に設置してある自動販売機に行き、2本ペットボトルを購入すると、私が座るベンチに近づいてきた。

紅茶のペットボトルを買ってくれた狭川くんは、1人分席をあけ、私の横に座った。

ペットボトルのお礼を言う私に、彼は「いいよ、俺バイトしててお金持ちだから」と微笑んだ。


「本当にごめんな」


そんな狭川くんは私に謝ってくる。


「小町さんを騙す形になって。小町さん…乙和のことすげぇ好きなんだなって思うと、やっぱり騙すのは…って。その…申し訳なくて…ごめん」

「…」

「腹立ってたんだ。乙和、何も教えてくんねぇから…。俺ら友達なのに。勇心にだけ喋って。だったら小町さんに近づいてやろうって。でも、俺の狙いを分かってる乙和がすげぇ怒って…。ほら、昼に言っただろ?中途半端な気持ちで近づくなって言われたって…。つか、それで怒るなら、俺に教えろって話なんだけど…」

「…」

「乙和がおかしいって思ったのは、夏前なんだ…」


狭川くんが、ゆっくりと語り出す。


「付き合い悪いっつーか、バイクも乗らないって言うし、遊びに誘っても断られるし。なんか前より痩せてるし。前の乙和じゃ考えられなくて」

「…」

「夏前に彼女と、小町さんと別れたって聞いてたから、それで落ち込んでんのかって思ってて。乙和に聞いても「俺が悪いから」しか言わねぇの。おかしいだろ?乙和、すげぇ良い奴だろ?悪いところなんか無いだろ?乙和は人が傷つくことは絶対しないタイプだから…」

「…」

「乙和、どう見てもまだ小町さんのこと好きだし…。 小町さんも乙和のこと好きだろ? なんで別れたって聞いてもやっぱり教えてくれなくて。別れないといけない原因があったんじゃないかって」

「…」

「よくあるだろ?ドラマとかで。病気になったから、泣く泣く別れるとか。まさかそういうのじゃないよな?って思って」

「…」

「乙和、目ぇ、悪いだろ? 悪いっつーか、文字、見えにくそうにするとか…」

「…」

「脳に腫瘍とか、…だから見えにくいとか。そういうの、考えて…。俺んとこのじーちゃんもそれで死んだから」

「…」

「小町さん…」

「…」

「教えてくれよ、乙和、病気なのか?」

「…」

「小町さんなら知ってるだろ? だから別れたんだろ?」



私は何も知らない………。



なんて無力なんだろう…。

私はぎゅっと、ペットボトルを握りしめた。



「私も知らないの…」

「え?」

「乙和くん、教えくれなかった…」


私の言葉に目を開いた狭川くん。


「私も狭川くんと一緒だよ。何も知らないの。私に迷惑をかけられないって…別れた…」

「え…でも、」

「きっと乙和くんはもう、教えてくれない。乙和くんは優しいから、私が困ることをしないんだと思う」

「…」

「きっと狭川くんも、同じじゃないかな…」

「小町さんは、もし乙和が病気でも知りたいとか思わねぇの?傍にいようとか思わねぇ?」


思うよ、
思うに決まってる。
今だって、今すぐ乙和くんに会いたくて…。

今でも大好きって伝えたい。それでも、


「俺は知りたい…、だって、乙和、もしヤバい病気なら死ぬかもじゃん…」


死ぬ…
乙和くんが…。
でも、命に関わることじゃないと、小山くんは言っていた。


「……分かった、乙和にもう一回聞く。全部答えるまで、嘘ついても聞き出す」


そう言って、目の色を変えた男…。


「今からここに、乙和呼び出すから。小町さんは帰る?どうする?」


乙和くんをここに呼び出す…?


「俺はもう、覚悟できてるから…」


覚悟…。


「小町さんは、本当にこのままでいいの?」