「結婚しやん？」



なあなあ、と、呼びかけられたのが始まりだった。それは高校一年生の春。習字の授業終わり、筆を洗っている最中にそれを言われた。

私の横にたち、同じように筆を手にしている男の名前も知らず、というよりも喋ったこともなかった。
2クラス合同で行うこの授業。多分、隣のクラスの男子生徒のはずで。

柔らかそうな黒の短髪に、笑顔が似合う男だったけど。意味が分からないことを言ってくる彼に〝え？〟と開いた口が塞がらず。


「なんかな、後ろから見てたんやけど君の雰囲気？めっちゃ好きやねん」


照れたように、頬を赤く染める彼はそのまま私と目が合わさったまま口にする。


「たぶん…ちゃうな、絶対君のことめちゃくちゃ好きになると思うねん」


どうやら告白…を、してるらしい彼は私の名前も知らないみたいで。


「学校、卒業したら俺と結婚しやん？」




初めての会話は、プロポーズ。


それが、私と彼の出会いだった。