今日は、あの伝説のアニメの限定復刻盤があの店限定で発売される日よ。
 なんて、浮足立った隠れオタクの私が向かった先に、例の婚活イケメンカウンセラーがいたのです。

 なんと今、まさにお目当ての商品を2つも買ったオタク男がいるじゃない。
 
「あら、あなたも、これを買いに来たの?」
 自然に微笑むことができたかな。
 
「まぁ……」
 少し照れた顔がかわいいわ。
 
「あと1つしかないので、お譲りしますわ」
 
「いや、俺はいいですよ。お譲りします。でも、限定DVDは観たかったかなぁ」

「一緒に観ますか? 私の家で」

「でも、お客様とそういったプライベートな交流は、まずいので」
「観たくないのですか?」
「観たいです」
 
 その限定品を購入し、私の家で鑑賞することになった。せいぜい三十分程度だ。

 ちょうど夕食時。彼が特典DVDを見ているうちに、いいお嫁さんアピールするんだから。こんなに集中力を酷使して夕食を作ったのはいつぶりかしら。
 
「俺だけ観てしまって、すみません」
「いえいえ、私はじっくり後で見ますから。お召し上がりになってください」
 作戦成功ね。日頃の成果を発揮できたわ。
 
 でも、会員とアドバイザーという垣根を越えて、オタク談義に花を咲かせって本当は会社としてはまずいのかしら? イケメンアドバイザーさん、本当に面白い。気取った男かと思ったけれど、全然違う。
 
「うまい」
 一口食べただけで彼が発した言葉。
 うれしい。私のハートは彼の笑顔に射抜かれっぱなしだ。こんなのダメだってことはわかっている。
 会員同士を結婚させるのが目的なのに、アドバイザーの男を好きになってどうするのよ。

「じゃあ、僕はここで失礼します。本当にすみません、ごちそうになっちゃって」

「じゃあ私のお願い聞いてくれますか? 一緒にこれからDVDを見てください」
 一世一代の勇気を振り絞る。

「でも、もう遅いですし、俺があなたの部屋にこれ以上いるなんて、申し訳ないですよ」

「私からのお願いです。隣に座ってください」
 気持ちに嘘はつけない。好きになれる人にそうそう出会えないのだから。
「あと、もう一つお願いがあります。私と模擬デートじゃないデートをしていただけますか?」
 
「はい?」
 彼はあきれているのだろう。
 
「やっぱり嫌ですよね」
 そんなことわかっていたはずなのに。
 
「嫌、じゃないですけれど。俺なんかでいいのですか? あなた美人だし」
 
 ちゃんと言わないと、一生後悔する。
「もう少しあなたと一緒に居たいから、お誘いしているのに」
 
「俺なんかで?」
 彼は自分の人差し指を自分に向けた。
 
「手をだしてください」
 手を出すと、彼の手を握った。人生初だ。
「鑑賞中は手をつないでいてください」
「―――はい」
 DVDの内容は全然頭に入ってこなかった。
 
 彼のことが好きだから。手を握っただけで、頭は真っ白で、何も考えられなくなっていたのだから。