それは、収録中の出来事だった。
「これ、渡しておく」
そういわれて渡されたメモだけど、何だろう?
電話番号とメールアドレス、これ、ナル兄の連絡先? 私は驚いてすぐに隠した。
連絡しろってこと? 本人に確認してみないと。
「あの、さっきの……?」
「あれ? 俺のファンじゃなかった? のどかおねえさん」
意地悪そうなほほえみ。この人の笑顔は反則だ。
「でも、私、恋愛する気もないですし」
「なんだその、すぐ恋愛とかいう発想。幼稚だな」
「用事ないですから」
「夜、さびしくなったらメッセージを送ればいい。毎日俺らは会えるけどな。俺、基本仕事仲間とは連絡しないから」
「前任のおねえさんにも連絡していますよね?」
ネット上で話題になった、おねえさんとおにいさんの恋愛。
「俺、連絡先教えてないし知らないから」
ええええ?
何? 私にだけ教えたの? どっきりか? からかいだとしか思えない。私の心拍数は上がった。
「俺、おまえみたいな純粋で真っすぐな人を見ると、つい、いじめたくなるんだよな」
「小学生の男子ですか?」
「小学生の男子って気になる人をいじめるっていう習性あるだろ」
「……?」
「とりあえず、今夜メッセージ送れよ」
そして、突然何事もなかったかのように仕事モードになる。なんて器用な男なのだろう。不器用な人間から見るとうらやましい。
私の胸はどきどき高鳴る。メッセージなんて送ろう? もう私はメッセージのことで頭がいっぱいだ。私は既におにいさんに毒の鎖で巻かれているのかもしれない。何を送信してもあの人の毒牙が向けられそうで怖いけれど――近づきたい。複雑だ。