英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない

 幼馴染と魔王のやりとりを聞いて、ティーゼは、強い魔族は名前で何かしらの契約を行えてしまえるのか、と考えた。
 
 そのような事はしていないとルイは否定してくれたが、内容がよく分からないうえ、魔力を感じられない身としては気になった。クリストファーが珍しく緊張感を漂わせているので、軽々しい内容のものではないとは察せる。

 そういえば、もう一人確認しておくべき人物がいたと思い出し、ティーゼは慌ててルチアーノの袖を引っ張り尋ねた。

「あの、契約とかよく分からないんですけど、ルチアーノさんも違いますよねッ?」
「私も陛下と同様に、あなたに対して口頭で正式に名乗っておりません。むしろ自己紹介もしていないのに、あなたが勝手に私の名前を呼んでいるだけです。そもそも、『悪魔の恩恵』は簡単に与えられるものではありませんし、人間の騎士が姫に忠誠を誓う儀式と同じレベルで手順を踏まなければ、発動しません」

 あ、そうなんだ。心配して損し――……ん?