英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない

 ティーゼは笑って誤魔化す事にした。普段のがさつさを潜めさせて、やんわりと曖昧に微笑んで見せた。すると、ルイは蕩けるように笑みを深めて、喜びを重ねて表現するように「ありがとう」とにっこりとした。


 その時、空気が凍りつく殺気を覚え、ティーゼは笑顔を引っ込めた。


 肩から首の後ろにかけて感じる、押し潰されるような重圧感は、ギルドの仕事で強い害獣と遭遇した時のような緊張感を思い出させた。いや、むしろ、それよりも遥かに強い、研ぎ澄まされた殺気に本能的な危機感を覚える。

 反射的に振り返ったティーゼは、そこにいるはずのない人物を見付けて目を瞠った。思わず、錯覚だろうかと数回瞬きしたが、吹き抜けた風に彼の明るい栗色の髪がなびくのを見て、現実なのだと理解した。

 いや、そういうことじゃなくて……

 ひとまず幽霊や幻ではないとは分かったが、問題はそこではないのだ。呆気にとられたティーゼは、そのまま彼に疑問をぶつけていた。


「……なんで、ここにいるの?」


 そこにいたのは、侯爵家の男子として相応しい正装に身を包み、英雄として授与された剣を腰に差したクリストファーだった。