英雄の可愛い幼馴染は、彼の真っ黒な本性を知らない

 ルイが五回目の練習に入った頃、ティーゼは虚無の心境に至った。

 六回目、七回目となると、突っ立って手紙を受け取るだけの役目に飽きてしまい、遠い眼差しで「どこでお役目御免になるのだろう」とぼんやり考えた。


 思い返せば、まだ町の食堂にも行けていないし、気楽な散策プランも発動出来ていない。立派な屋敷の温泉に浸かれた事と、極上のベッドで眠れたのは良しとするが、一人でハーブのクッキー店を経営しているティーゼには、この長い祝日はまたとないチャンスなのだ。

 あの町を出て、新しい何かに挑戦出来るような事をじっくり考えながら、色々と見て回れる絶好の機会だった。

 ルイが悪い人でないことは、知り合ってからの短い期間で理解していた。彼は魔王という立場でありながら、驚くほど純真無垢で一途だ。

 これも何かの縁ではあるし、別れた後も、ルイの恋路を応援し続ける気持ちを忘れないだろうと思えるぐらいには、彼には好感を覚えているし、応援したい気持ちも芽生えている。