ギルドの仕事は、距離があれば報酬も上がるのだが、幼馴染の彼は、ティーゼがどんなに安全性を説いても理解を示してくれなかった。

 女性に対して、どこか過保護になる貴族の姿勢には、少しの妥協があってもいいのではないかと、ティーゼは常々思っていたほどだ。そもそも、ティーゼは貴族ではないので誘拐される事はないし、剣の腕も、取っ組み合いの喧嘩も得意である。

「そうか、初外泊か。うん、素晴らしいと思う!」

 経験が積めるのは新鮮で素晴らしい事だ。

 部屋の扉を出るまで、ティーゼは現在置かれている状況と、面倒な人物についてうっかり忘れていた。

              ※※※

 扉を開けた瞬間、ティーゼは、目の前に立つ男を見て、部屋に戻って扉を締めてやりたくなった。

 とりあえず数秒は考えたが、あらゆるパターンと嫌がらせの理由が浮かんで絞り込めず、とりあえず警戒しつつも、本人に訊いてみる事にした。

「……ルチアーノさん。あの、何をしてるんですか?」
「惰眠を貪っているのなら叩き起こして差し上げようと、氷水を持ってきた次第です」