若干の空腹も覚えてもいたので、ティーゼとしては早々の退散を希望していた。
 この町に到着してから、クッキーしか口にしていない。

「ルイさん、大丈夫です。まずは普通に声を掛けて、ちょっと談笑した後に、それとなく手紙を渡せばいいんですよ。ルチアーノさんの言う通り、プレゼントと同じ要領です、ちっとも怖くありませんッ」
「でも、突然手渡されたら困らないかな?」
「同じ女性として言わせてもらいますが、世間話のついでに『どうぞ』と優しい笑顔で渡されて、嫌に感じる人はいないと思います。ルイさんの笑顔ならいけます!」

 マーガリー嬢も本心からルイを嫌っているわけではなさそうなので、恐らく、警戒はされても、受け取るぐらいはしてくれるだろう。

 ティーゼが自身たっぷりに頷いてみせると、ルイもようやく自信が戻って来たのか、笑顔を浮かべて大事そうに手紙を整え、封をした。宛て名に「愛しい人へ」と書き記し、後ろには「魔王より」とペンで記す。