悩んでいると、唐突に腕を掴まれてびっくりした。

 反射的に顔を上げると、こちらを覗きこむ青い瞳と至近距離で目が合った。彼の眼差しは、何かを確認するかのように真剣で力強かった。

「ティーゼが、誰かを選んでいない事は一目瞭然だけど」
「一目……? え、何が…………?」
「僕にだって、どうしても譲れない事ぐらいある」

 そう言って溜息をもらしたクリストファーの眼差しから、ふっと威圧感が消えた。続いて困ったように笑った顔は、ティーゼがよく知っている幼馴染のものだったから、ティーゼは知らず警戒を解いていた。

「――ねぇ、ティーゼ」

 クリストファーが、宥めるような穏やかな声でそう告げて、ティーゼの腕から手へと滑らせて優しく握った。彼は彼女の顔を覗きこみ、ふんわりと微笑む。

「仕事の依頼は終わっているようだけど、ティーゼは、ここで何をしているのか訊いてもいい?」
「えぇと、ルイさんの恋のお手伝い、かな。騎士団にマーガリーさんっていうキレイな人がいるんだけど、ルイさんの想いが一方通行というか」

 緊張感から解放されたティーゼは、素直にそう答えた。

 すると、クリストファーが曖昧に微笑んだ。

「ベンガル伯爵のところの『獅子令嬢』か、なるほどね。二人の恋がうまくいきそうだと分かれば、素直に納得して手を引いてくれる?」