今世代の魔王は、考え方も人間寄りで、人間族の王とも親しい関係を築いており、国内にいくつか屋敷が建っているとも聞いていた。

 そこまで考えて、ティーゼは一つの可能性に思い至った。

「あ。もしかして、ランベルの町の屋敷って、魔王の別邸だったりする?」

 ティーゼが尋ねると、マリーは「そういうところね」とぼかして答えた。彼女にも、依頼主や依頼先の個人情報を守る義務はあるので、ティーゼは、肯定の眼差しだけを受け取って素直に引き下がった。

 前払いとして受け取った報酬は、手紙を渡すだけの簡単な仕事にしては弾んでいた。物騒などない道のりなのだが、手紙の送り主に関しても、相当身分のある人間らしいと推測出来た。

「先に言っておくけど、列車でも一日は掛かる距離よ。田舎町だから祭りなんてやってないだろうし、騎士団の小さな支部があるだけの田舎町で観光にもならないから」

 出掛けようとするティーゼに、マリーが頬杖をついたまま声を掛けた。