クリス、あなたは私に何も悪い事なんてしていないのだから、ずっと気にかけ続ける必要なんて、何処にもないんだよ。

 半魔族の奇襲に遭った経験のせいで、目の届かないところに消えてしまうと、彼は不安に駆られるのかもしれない。ティーゼは、申し訳なさを覚えた。彼が半魔族の王を倒しに行くよりも前に、もう大丈夫だよ、と彼を安心させるべきだった。

 しかし、声を掛ける前に、クリストファーが「じゃあ後でね」小さな声を残して町の方へと歩いていってしまい、ティーゼは、話すタイミングを逃して立ち尽くした。


 彼を見送るティーゼの後ろで、ルイが「若いねぇ」と微笑ましいものを見るような笑顔を浮かべ、ルチアーノが目頭を指で押さえて、盛大な溜息をこぼした。


 クリストファーの姿が見えなくなってすぐ、ルイが少し考えるように首を傾げて「なんかごめんね? 僕は手紙を渡して来るから、ティーゼは先に少し休んでいるといいよ」と言った。