ティーゼは聞き取れずに「なに?」と尋ね返したが、クリストファーは、私情の読めない眼差しで絡みつくように見つめ返すだけで、何を言ったのか教えてくれなかった。

 人間より五感の優れているルイとルチアーノは、彼の口の中に消えた言葉を聞き取れたようだ。ルイがようやく腑に落ちたとばかりに「うーん、どうしたものか……」と困ったように頬をかき、そのそばで、ルチアーノが露骨に怪訝な表情を浮かべた。

「失礼ですが英雄殿、私がいつこの貧乳に気を持ったと? コレは下心さえ誘わない残念な体系のうえ頭も弱いですし、そもそも女としての色気もゼロで、背も胸もない」
「ぐぅッ。色気は仕方ないにしても、胸は盛ってないだけだって言ったじゃん!」

 この嫌味宰相めッ、隙あらば人のコンプレックスを抉りに来やがって……!

 ティーゼは思わず「なんでこのタイミングで、この話題をぶり返すんですか!」と言い返した。十六歳女性の平均には届いていないかもしれないが、それなりに膨らみはあるのだ。男性服は少々生地が重いから、隠れてしまうだけである。