あー……。

うん。声は出ない。

視界もぼやけている。

あー、そっか、私………。

自分から死ぬことだけは避けて来た。自殺だけはしないと選んできた。

だから、今なら。

殺されて逝こうとしている、今なら。

もう、いーよね……。

疲れたかも、しれないから。

「なー、その血いらねえんなら俺にくんない?」

暗い林道に倒れ伏したわたし。

背中を斬りつけられ、血が流れ出ている。

喋ることも、瞬くことも出来ないほど意識に霞がかかっている。

――月を背にした彼が現れるまでは。

「……ほしい……の…?」

あれ、音が出る。しゃべってる?

「そー。マズい血、飲まされてるから。あんたからいいにおいするし、美味そうだし」

そう言って、その人はわたしの脇に膝をつき、首元に触れた。手……冷たい。

「なあ、いい?」

「……いい、よ……わたし、を、しなせて……くれるなら………」

「ちゃんと送るよ。一度きりの餌にはしねえ。じゃあ――」

その人は、わたしの頭に手を添えて少しだけ持ち上げた。

「いただきます」

牙――が、首に突き刺さった。