「……」

胸を衝く衝動に耐えられなくなって、窓から身を乗り出した。

ここは二階。下は植え込みになっているけれど――

「あ、やっぱ見た」

声は真正面からした。驚いて顔をあげると、私の部屋の前に立つ樹の枝に、黎明の吸血鬼はいた。

「このままシカトされたらさすがにどうしようかと思った」

軽く笑う黎明の吸血鬼を見て、また胸が熱くなる。どうしよう。……どうしよう。その姿を見るだけで、なんでか知らないけど、泣きそうになってしまう。それが恐怖からではないことだけは、わかる。

「ど、どうやって……」

「うん? 投げ飛ばされたのに乗じて飛び移っただけだけど? 距離が近くてよかったよ」

「私、死なせてって、言わなかった……?」

心の、小さな鍵付きの部屋に閉じ込めていた言葉。

誰にも言わないと、言うことはないだろうと思っていた、言葉。

夢か現かの世界で、私はそれを音として自分の耳に聞いていた。

私と同じ高さにある樹の枝に腰掛ける青年は優雅に微笑む。

「言ったよ。死なせてくれるなら、血をあげるって」

「……じゃあ、何で、私……、血、飲まなかったの……?」

「飲んだよ。いただいた」

「――じゃあ!」

「言葉は護るよ。お前は、最期のときに一緒にいてくれるなら、最期のときに傍にいて手を握ってくれるなら、って言ったんだよ」

「………」

「だから、俺はお前と一緒にいるよ。最期の時に手を握っててやる。お前が天命を待って死ぬまで」

「―――」

天命を待って、

  死ぬまで。

「私は今―――」

しぬべきなの。

ずっと鍵のかかった部屋にいた言葉。飛び出すならば、今しかない。