「『十字架の』だ。架という名づけの由来は知らんが、兄が吸血鬼で本人の名にも入っているから」

十字架の架、ということか。

「桜城くんの呼び方カッコいいね」

「……笑い飛ばしてくれていいよ……」

桜城くんがどんどこ落ち込んでいく。そんな経緯があって、桜城くんは白ちゃんが苦手なようだ。さっきも、逢った瞬間唸っていたし。

「真紅は、紅亜様の家に連れて行けばいいんだよな?」

「えっ? 一人で帰れるよ。それに海雨――さっき話した友達の病院にも寄るつもりだし」

「そうか? では俺も一緒していいか? 黒と紅亜様に、真紅は送り届けると約束したし、その友人とやらも一度見ておきたい」

「……白ちゃんのことはなんて説明すればいいかな?」

「病室には入らないよ。その姿を一度窺えれば、真紅の懸念も少しはわかるかもしれない」

確かに、白ちゃんは私と同い年ですでに当主と聞く。ならば、白ちゃんに海雨のことも見てもらった方がいいかもしれない。

「じゃあ……白ちゃんも一緒に来てもらえる?」

「当然だ。架は?」

「……貴方の傍にはいたくないですが、真紅ちゃんの傍にはいます」

桜城くんは苦虫を噛み潰しまくっている表情で言った。

そんなに苦手なら帰ってもいいのに……言おうとしたけど、ママが去ったときも残った桜城くんを言いくるめる自信はなかった。

「賢明だな。では、行くか」

破凛――『はりん』という硝子が割れるような澄んだ音が耳に響いた。

次の瞬間には、今までとは違う空気の、しかし同じ景色の中にいた。

道を歩く生徒の姿がいつの間にか見えていた。