「うわぁ」

ーーーー思わず声が出た。今夜は雲がすくない。

見上げた夜空は藍色の中にラメを散りばめたように、星たちが競うように、笑うように輝きを放ち、ほんのりと黄身ががったクリーム色のお月様が、仄かに優しく夜空を照らしていた。


「なぁ。あみ、さん?……」

不意に名前を呼ばれた私は、驚いて、急いで首を元に戻した。

ーーーー目の前には昨日のアイツが立っていた。

「え?何で?私の名前……」

「あぁ、これに書いてあったから」

ぶっきらぼうに差し出されたのは、読み過ぎてボロボロになってる、私の星座の本だった。裏表紙には、幼い文字で『あみ』と書いてある。

「あ、ありがとう」

恥ずかしそうに受け取った私をみて、彼が笑った。

「えっと……俺は、高橋瞬(たかはししゅん)。しゅんは、一瞬の瞬。……本が、そんなボロボロになるほど星好きなんだ?」

「え?あ、うん。……私は、戸田(とだ)あみ。あみは、平仮名……」

「そっか……良かった。ここに置いておこうか迷ったけど、大事なものだと思ったから」


ーーーー何だろう、昨日は、あんなに()な奴だと思ってたのに、今日はなんだかわからないけど、彼に対して、嫌な気持ちは沸かなかったし、心なしか彼の態度も柔和な気がした。

「俺も星、好きなんだよね」

両手を腰に当てて、唇の端を持ち上げながら、夜空を見上げる瞬に、私はやっぱり見惚(みと)れてしまった。昨日は座っていてわからなかったけど、背が高い。視線をこちらに戻すと、彼は、少し言いにくそうに口を開いた。