「え? お仕事で王都の郊外に?」
「ああ、そうなんだ。どうしても仕事で行かなければならなくて、家をあけるのは申し訳ないのだけれど」
「私のことは気にしないでください。ラウラもいますし、マナーのお稽古もたくさんしておきますので!」

 朝食の後でエルヴィンの自室に呼び出されたシャルロッテは、エルヴィンの出張の予定を聞いていた。
 シャルロッテと話すエルヴィンの隣では、エルヴィンの側近であるレオンが荷物を詰めている。
 ゆっくりとエルヴィンはシャルロッテに近づくと、彼女の腕を引き抱きしめた。

「エルヴィン様っ?!」
「ああ、しばらく会えないと思うと辛いよ。こうして抱きしめてシャルロッテのぬくもりを感じることもできないなんて」
「ま、また帰って来られるのですよね?」
「もちろんさ。帰ってこられないような任務を与えていたら、クリストフを縄で縛りしばらく僻地に置いておくよ」

(クリストフさん、今すぐ逃げてください)

 すると、抱き合う二人に向かってレオンが「こほん」を咳払いをしてエルヴィンに退出の合図をする。
 エルヴィンはシャルロッテに見えないようにレオンに「いいところなんだから邪魔をするな」と視線を送るも、主人のことを熟知したレオンはすでに目を逸らしていた。

「じゃあ、行ってくるよ。家のことはみんなに任せているし、何かあればラウラを頼るといい」
「あ、はいっ! かしこまりました」

 離れがたいのかゆっくり腕を離すと、今度はシャルロッテのおでこに唇をつけた。

「──っ!」
「帰ってきたら続きをしよう」

 そういって自室から出ていくエルヴィンをシャルロッテは寂しそうにみつめる。
 シャルロッテは最後に触れ合ったおでこにそっと手を持っていくと小さな声で呟いた。

「寂しいです」

 誰もいなくなったエルヴィンの部屋にシャルロッテのか弱い声が消えていった──