「シャルロッテは悪くない」
「ですがっ! 私はやはり忌々しい人間なのです! 何もできない。人を不幸にしかできない、そんな人間です! エルヴィン様にもご迷惑をかけて……」
「私は何も不幸ではないし、迷惑なんてかけられていない」

 シャルロッテは涙を見せ、癇癪を起しながらエルヴィンに反論する。

「エルヴィン様のことを悪く言われました。私のせいです! 私が婚約者として、妻としてしっかりできていないからっ! だからっ!!」

 呼吸を乱しながら涙でぐちゃぐちゃにして泣き叫ぶシャルロッテ。
 その様子を見て思わずエルヴィンは毛布ごとシャルロッテを後ろから力強く抱きしめた。

「──っ!」
「お願いだ、そんなに自分を卑下しないでほしい。シャルロッテが忌々しいなんて私は思っていない」
「でもっ! でもっ! 実際に社交界では私が妻になったことでエルヴィン様の評判は落ちているはずです。なんてお詫びをすればよいのか……ごめんなさい……」
「『冷血公爵』は私の職務が関係している。私は王から命を受けて罪人を裁く立場にある。だから人々はそう呼ぶんだ。それはシャルロッテが悪いわけじゃないよ」

 エルヴィンはシャルロッテの前に跪いて視線を合わせると、両手を握って優しく告げる。

「いいかい、シャルロッテ。よく聞いてほしい。私は『金色の目』も含めて好きだよ。金色の目は忌々しいものなんかじゃない、だってこんなに綺麗じゃないか。それにこんなに美しい心を持ったシャルロッテが悪いわけがない」
「エルヴィンさま……」
「だから、もっと私を、そして自分を信じなさい。君はもう一人でもなんでもない。アイヒベルク家すべての人間が君の味方だ。君を笑うものも、君を悲しませるものも一人もいない。もしそんな人間が現れたら、私が全ての力をもってシャルロッテ、君を必ず守るよ」

 両手をぎゅっと強く握りしめられたシャルロッテは、はっとするようにエルヴィンの目を見つめる。
 そこにはもうお茶会から帰ってきたときの虚ろな目はなかった。

 シャルロッテはもう一度顔をくしゃっとさせながら涙を流すと、エルヴィンに抱き着いた。

「──っ!」
「私も自分を変えたい! エルヴィン様のように強くなりたいです」

 心からの叫びを受け取ったエルヴィンは優しく微笑みながら、シャルロッテの背中をとんとんと慰めるように叩く。

「ゆっくりでいい。君は今よりもっと強く、そして優しくなれるよ」


 暖炉からパチパチと音がして、木片がころんと転がり炎が激しく燃え上がった──