アイヒベルク邸のエルヴィンの執務室では、シャルロッテの世話役であるラウラとエルヴィンが言葉を交わしている。
 夕方頃からの酷い豪雨と雷で、屋敷の中もすでに暗かった。

「それは本当なのか、ラウラ!」
「ご不在だったとはいえ、お伝えするのが遅くなり大変申し訳ございません!」
「君のせいじゃない、ひとまず私はアドルフ伯爵邸へと向かう」
「お待ちくださいっ! 外は豪雨で危険です、家の者で探しますから……」
「待てないっ! シャルロッテが心配すぎるっ! 私が行く!!」
「……かしこまりました、馬車の準備をいたします」

 ラウラからシャルロッテが何も言わずにアドルフ伯爵邸へと向かったと聞いたエルヴィンは、その黒髪を揺らしながら部屋を後にした。
 そうして玄関の扉を開けた途端、家の前には馬車が停車しておりその中からゆっくりと俯いたシャルロッテが出てきた。


「…………………………」


 浴びた紅茶は降りしきる雨で一気に流れ落ち、そしてさらにシャルロッテの身体に容赦なく雨粒が打ち付ける。

「シャルロッテ……」

 自分の名を呼ばれてぴくりと肩を揺らした彼女は、虚ろな目をエルヴィンに向ける。

「エル、ヴィンさま……」


 涙か雨かわからない雫が滝のように頬を伝い落ちる。
 その瞬間、あたりがピカリと眩い光に包まれた後、大きな振動と共に轟音が鳴り響いた──