「私はね、ヴェーデル家から届く手紙がある日を境に字が変わったことに気づいたんだ。はじめは特に気に留めなかったけど、次第にその字に惹かれてね。私は文字には心が宿り、書いている人の人柄を写すものだと思っているんだ。それで、その字を書く人物に会いたいと思ってヴェーデル伯爵に声をかけた。私も『冷血公爵』とまわりに恐れられているからね、向こうから婚約の持ちかけがあったんだ。それで私の側近のレオンに調べさせて、シャルロッテの存在を知った」

「私の字を見て……」
「うん。こんな字を書く人はどれだけ心が綺麗なんだろうって。レオンからシャルロッテの境遇や行動を聞くたびに、胸が痛くなったし、それにどんどんシャルロッテのことが気になっていった」

 シャルロッテは黙ってエルヴィンの話を真剣に聞く。

「そうして婚約が成立したその日に、シャルロッテは私のもとへやってきた。実際に会ってみて話をして、やっぱり素敵な女性だと思ったよ」

 エルヴィンは目をつぶって思い出すように微笑みながら語る。
 シャルロッテははじめての感情に戸惑いを覚えていた。

「わ、私はそのような大層な人間ではありません。ですが、その、なんて申し上げたらいいのか……嬉しいです」
「──っ!」

 言葉にできない代わりにがんばって嬉しい表情を作ろうとするシャルロッテだが、ちょっと不器用な笑顔になってしまっている。
 そんな表情を見せるシャルロッテをエルヴィンはたまらなく愛おしくなった。

「え、エルヴィン様っ?!」

 エルヴィンはシャルロッテを勢いよく抱きしめるとシャルロッテの髪と首元に顔をうずめる。
 どうしていいかわからず、それでも恥ずかしさだけ感じるシャルロッテは顔を少し赤らめた。

「本当に結婚してよかった。シャルロッテ、好きだよ」

 その言葉に「わ、私もです」と返すのがやっとだった──