シャルロッテがエルヴィンの妻となった翌日の朝。
 アイヒベルク家のダイニングでは、メイドと執事たちがせっせと朝食の準備をしていた。
 そこに起床したシャルロッテがやってきて、メイドたちに話しかける。

「あの、私も何か手伝わせてください」
「そんな、とんでもございません。奥様にそのようなことはさせられません!」

 「奥様」という言葉がとてもこそばゆく、心が落ち着かないシャルロッテ。
 そのような大層な身ではございません、と否定するものの、メイドたちは首を横に振ってナイフやスプーンをテーブルに並べる。
 シャルロッテは無理矢理何か手伝おうとするも、実家で虐げられて基本的に余り物のスープしか飲んだことがなかった彼女は手伝うにも何をすればいいかわからなかった。
 きょろきょろと周りを見回しながら、邪魔にならないようにそっと壁際に後ずさりする。

 しかし、その身体を一人の男性が受け止めた。

「公爵様っ!」

 シャルロッテの肩に優しく手を置くと、「おはよう」と爽やかな笑顔でシャルロッテに声をかける。

「おはようございます、公爵様」
「シャルロッテ、私に対してはもうしなくて大丈夫だよ。ありがとう」

 カーテシーで挨拶をするシャルロッテに、エルヴィンはそっと優しい言葉で教える。
 
「ごめんなさい、何か私間違っていたのでしょうか」
「間違ってないよ、大丈夫。シャルロッテは優しいからたくさんご挨拶してくれるね。でも、大変だから私には普段はしなくていいよ」

 そのあまりに柔和な表情に、シャルロッテは昨日の夜のことを思い出していた。


『結婚のことはまだ心の整理がつかないだろうから、今は形式だけで構わない』