「ユチ様、先ほどはお疲れ様でございました。さあ、そこに横になってくださいまし」
「いや、もういいから……」
その後、俺はあてがわれた家でルージュのマッサージを受けていた。
というより、俺の体はヌルヌルにされている。
なんでも、彼女が開発した特製のオイルらしい。
おまけに、服はほとんどルージュに脱がされてしまった。
パンツ一枚でなんとか下半身を死守している状況だ。
「さあ、まだまだこれからでございますよ」
ルージュは半裸の俺をこれでもかと揉みこむ。
確かに疲れは消えていく。
だが、絵面がヤバすぎるのだ。
「ああ、なんと嘆かわしや。ユチ様のおみ足がこわばっております」
ルージュは額に手を当ててクラクラしている。
まぁ、結構歩きはしたがそこまでじゃないだろ。
「いや、ほんと大丈夫だから」
「ユチ様、まだ終わっておりませぬ」
一瞬の隙をついて逃げようとするが、すぐに捕まってしまった。
さすがはSランクの元冒険者だ。
「ただ歩いただけだから、そんなに疲れてないからね」
「何をおっしゃいますか。ユチ様は全世界の宝ですので、常にケアが必要なのですよ」
ルージュは嬉々として、俺の体を撫でまわす。
手つきが非常に怪しい。
かなり際どいところを攻めてくる。
こんなところを領民に見られたら、変なウワサが立ちそうだった。
着任早々、悪趣味な領主ってことになっちまう。
俺はそんなの絶対にイヤだぞ。
「生き神様、収穫した作物を見てくださいな! 畑がとんでもないことになっておりますのじゃ!」
いきなり、ソロモンさんが家に入ってきた。
俺たちを見てギョッとしている。
目がバシャバシャ泳ぎまくっていた。
「あっ! こ、これはただのマッサージでして……」
「いいえ、ユチ様専用のト・ク・ベ・ツ・なマッサージでございます」
「これは失礼いたしました。せっかくのところをお邪魔してしまいましたな。どうぞお楽しみくださいですじゃ。では、お邪魔虫はこれにて失礼……」
「ちょーっと待ってください!」
さっさと出て行きそうなソロモンさんを慌てて呼び止めた。
何としてでも誤解を解かねばまずい。
「大丈夫、わかっておりますぞ! こう見えても、ワシは色々経験しておりますのじゃ!」
ソロモンさんはウインクしながらグッジョブしてきた。
誇らしいほどのドヤ顔だ。
「ソ、ソロモンさん! わかってないです!」
「さ! そんなことより、生き神様もお早く!」
「あっ、いやっ、ちょっ……! せめて、服を……!」
「ユチ様はそのままでも素敵でございます」
「いや、そうじゃなくてね!」
結局、俺はほとんど裸でオイルまみれのまま畑に駆り出された。
「え……ウソでしょ……」
「ユチ様……あのクソ畑が楽園のようになっております」
畑に出たとき、俺たちはとにかく驚いた。
恐ろしく豊かになっているのだ。
米はずっしりと実り、トマトは光り輝き、レタスなんかは水も滴るほど瑞々しい。
中でも特筆すべきは、その成長速度だった。
どの作物もグングングングン育っている。
まるで、ちょっとしたジャングルみたいだ。
「ええ、すご……」
「まさか、これほどとは……」
領民たちが採っても採っても、すぐに新しい作物が育っていく。
ワンチャン無限に収穫できるんじゃなかろうか。
そんなことあり得ないのだが、本当にそう思うほどだった。
やがて、領民たちがこちらに気付いた。
「生き神様、そのオイルも御業の賜物ですか!?」
「おお、ありがたや、ありがたや!」
「私たちにも触らせてくださいませんか?」
あっという間に囲まれ、四方八方から手が伸びてくる。
それを避けるのは至難の業だった。
ソロモンさんも俺の手を握ってブンブンと振り回す。
「あのひなびた畑が、今やこんなに豊かな畑になりました。これも全部、領主様の御業のおかげですじゃ」
そのうち、領民たちが両手にいっぱいの作物を持ってきた。
「生き神様! 御業のおかげで大豊作でございますよ! こんなことは村の歴史上でも初めてです!」
「紛れもない奇跡でございます!」
「見てください、これが採れた作物ですよ!」
俺は裸のオイルまみれだが、そんなことはどうでもいいらしい。
領民たちが差し出した作物を見て、俺たちはさらに驚いた。
「いや、マジか……」
「これほどとは、私めも予想しておりませんでした」
そこには激レア作物がてんこ盛りだった。
<フレイムトマト>
レア度:★8
燃えたぎる炎のように赤いトマト。食べると少しずつ炎に強くなっていく。耐性力が最高まで上がると、溶岩の中を泳いでも火傷しないほどになる。
<ムーン人参>
レア度:★7
月で栽培されていたと伝わる人参。食べると体が軽くなり、数時間空を飛ぶことも可能。
<フレッシュブルレタス>
レア度:★8
水が滴るほど瑞々しさに溢れているレタス。一枚食べるだけで、一日分の水分を補給できる。
<電々ナス>
レア度:★9
弱い雷をまとったナス。食すとその魔力によって、身体が軽快に動くようになっていく。
<原初の古代米>
レア度:★10
古代世紀に絶滅したとされていた米。今は古代大陸の奥地にわずかに生息しているとされている。体に元々備わる治癒力を増強し、食べるたび不老不死に近づいていく。火を通すと腐らなくなるので、保存食としても優れている。
「この畑だけでどれくらいの価値があるんだ……こんなの王都でも手に入らないぞ。しかも、こんなにたくさんあるなんて」
「もしかしたら、どこからか種が飛んできたのかもしれませんね」
普通の作物のレア度は1とか2だ。
6を超えて、ようやく王族に献上されるレベルになる。
とんでもない高ランクの作物ばかりだった。
「「今日採れたこれらは、全て生き神様への供物でございます!」」
「え!?」
領民たちは俺に作物を押し付けて来る。
全部喰え、ということらしい。
「い、いや、せっかくなので、みんなで食べましょうよ」
「なんと、生き神様は私たちにも恵んでくださるのですか!?」
「あなた様はどこまで慈悲深いお方なんですか!?」
「これぞ我らが生き神様です!」
急遽、収穫した作物を使ってどんちゃん騒ぎが開かれることになった。
「生き神様、ここでは貴重なキレイな水でございますじゃ。どうぞお飲みくださいですじゃ」
ソロモンさんが透明な水を持ってきてくれた。
と言っても、何の変哲もない普通の水だ。
「ありがとうございます。貴重なキレイな水って、どういうことですか?」
「この辺りには水源があるんですがな。いつも汚れているのですじゃ」
マジか、そりゃ大変だわな。
「でしたら、早めにその水源ごと浄化しないとですね」
「是非ともお願いしますじゃ! 水分不足でほとほと困っておりましての!」
やがて宴も終わり、俺たちは家に帰ってきた。
「じゃあ、そろそろ寝るかな。お休み、ルージュ」
「お休みなさいませ、ユチ様」
領主として追放されたけど、この調子ならなんとかなりそうだな。
領民たちもみんな良い人そうだし。
むしろ、実家から追い出されて良かったぜ。
俺は心地よい眠りに落ちていく。
……ちょっと待て。
「いや、なんで、俺のベッドに入っているの?」
「それはもちろん、護衛のためでございます」
ルージュは俺にピッタリくっついている。
彼女の部屋もあるはずなのに……。
「やっぱりさ、別々に寝ようよ。だって、俺たちは別に……」
「お断りいたします。お休みなさいませ」
しかし、ピシリと断られてしまった。
すぐさま、ルージュはスヤスヤと寝始める。
こうなると、もうダメだ。
彼女の意思でないと、目覚めることはない。
着任早々、メイドを部屋にたらしこむなんて悪徳領主も甚だしい。
だが、今日はもうしゃーねえ。
その辺は明日なんとかしよう。
そんなことを考えているうちに、いつの間にか俺も寝ていた。
――――――――――――――――
【生き神様の領地のまとめ】
◆“キレイな”死の畑デスガーデン
村の中にある大きな畑。
領民が共同で耕している。
多種多様な作物が育っていたが、瘴気のせいでちっとも収穫できなかった。
ユチの聖域化により本来の貴重な作物が育つように。
成長スピードが異常に速く、ジャングルのような畑。
「いや、もういいから……」
その後、俺はあてがわれた家でルージュのマッサージを受けていた。
というより、俺の体はヌルヌルにされている。
なんでも、彼女が開発した特製のオイルらしい。
おまけに、服はほとんどルージュに脱がされてしまった。
パンツ一枚でなんとか下半身を死守している状況だ。
「さあ、まだまだこれからでございますよ」
ルージュは半裸の俺をこれでもかと揉みこむ。
確かに疲れは消えていく。
だが、絵面がヤバすぎるのだ。
「ああ、なんと嘆かわしや。ユチ様のおみ足がこわばっております」
ルージュは額に手を当ててクラクラしている。
まぁ、結構歩きはしたがそこまでじゃないだろ。
「いや、ほんと大丈夫だから」
「ユチ様、まだ終わっておりませぬ」
一瞬の隙をついて逃げようとするが、すぐに捕まってしまった。
さすがはSランクの元冒険者だ。
「ただ歩いただけだから、そんなに疲れてないからね」
「何をおっしゃいますか。ユチ様は全世界の宝ですので、常にケアが必要なのですよ」
ルージュは嬉々として、俺の体を撫でまわす。
手つきが非常に怪しい。
かなり際どいところを攻めてくる。
こんなところを領民に見られたら、変なウワサが立ちそうだった。
着任早々、悪趣味な領主ってことになっちまう。
俺はそんなの絶対にイヤだぞ。
「生き神様、収穫した作物を見てくださいな! 畑がとんでもないことになっておりますのじゃ!」
いきなり、ソロモンさんが家に入ってきた。
俺たちを見てギョッとしている。
目がバシャバシャ泳ぎまくっていた。
「あっ! こ、これはただのマッサージでして……」
「いいえ、ユチ様専用のト・ク・ベ・ツ・なマッサージでございます」
「これは失礼いたしました。せっかくのところをお邪魔してしまいましたな。どうぞお楽しみくださいですじゃ。では、お邪魔虫はこれにて失礼……」
「ちょーっと待ってください!」
さっさと出て行きそうなソロモンさんを慌てて呼び止めた。
何としてでも誤解を解かねばまずい。
「大丈夫、わかっておりますぞ! こう見えても、ワシは色々経験しておりますのじゃ!」
ソロモンさんはウインクしながらグッジョブしてきた。
誇らしいほどのドヤ顔だ。
「ソ、ソロモンさん! わかってないです!」
「さ! そんなことより、生き神様もお早く!」
「あっ、いやっ、ちょっ……! せめて、服を……!」
「ユチ様はそのままでも素敵でございます」
「いや、そうじゃなくてね!」
結局、俺はほとんど裸でオイルまみれのまま畑に駆り出された。
「え……ウソでしょ……」
「ユチ様……あのクソ畑が楽園のようになっております」
畑に出たとき、俺たちはとにかく驚いた。
恐ろしく豊かになっているのだ。
米はずっしりと実り、トマトは光り輝き、レタスなんかは水も滴るほど瑞々しい。
中でも特筆すべきは、その成長速度だった。
どの作物もグングングングン育っている。
まるで、ちょっとしたジャングルみたいだ。
「ええ、すご……」
「まさか、これほどとは……」
領民たちが採っても採っても、すぐに新しい作物が育っていく。
ワンチャン無限に収穫できるんじゃなかろうか。
そんなことあり得ないのだが、本当にそう思うほどだった。
やがて、領民たちがこちらに気付いた。
「生き神様、そのオイルも御業の賜物ですか!?」
「おお、ありがたや、ありがたや!」
「私たちにも触らせてくださいませんか?」
あっという間に囲まれ、四方八方から手が伸びてくる。
それを避けるのは至難の業だった。
ソロモンさんも俺の手を握ってブンブンと振り回す。
「あのひなびた畑が、今やこんなに豊かな畑になりました。これも全部、領主様の御業のおかげですじゃ」
そのうち、領民たちが両手にいっぱいの作物を持ってきた。
「生き神様! 御業のおかげで大豊作でございますよ! こんなことは村の歴史上でも初めてです!」
「紛れもない奇跡でございます!」
「見てください、これが採れた作物ですよ!」
俺は裸のオイルまみれだが、そんなことはどうでもいいらしい。
領民たちが差し出した作物を見て、俺たちはさらに驚いた。
「いや、マジか……」
「これほどとは、私めも予想しておりませんでした」
そこには激レア作物がてんこ盛りだった。
<フレイムトマト>
レア度:★8
燃えたぎる炎のように赤いトマト。食べると少しずつ炎に強くなっていく。耐性力が最高まで上がると、溶岩の中を泳いでも火傷しないほどになる。
<ムーン人参>
レア度:★7
月で栽培されていたと伝わる人参。食べると体が軽くなり、数時間空を飛ぶことも可能。
<フレッシュブルレタス>
レア度:★8
水が滴るほど瑞々しさに溢れているレタス。一枚食べるだけで、一日分の水分を補給できる。
<電々ナス>
レア度:★9
弱い雷をまとったナス。食すとその魔力によって、身体が軽快に動くようになっていく。
<原初の古代米>
レア度:★10
古代世紀に絶滅したとされていた米。今は古代大陸の奥地にわずかに生息しているとされている。体に元々備わる治癒力を増強し、食べるたび不老不死に近づいていく。火を通すと腐らなくなるので、保存食としても優れている。
「この畑だけでどれくらいの価値があるんだ……こんなの王都でも手に入らないぞ。しかも、こんなにたくさんあるなんて」
「もしかしたら、どこからか種が飛んできたのかもしれませんね」
普通の作物のレア度は1とか2だ。
6を超えて、ようやく王族に献上されるレベルになる。
とんでもない高ランクの作物ばかりだった。
「「今日採れたこれらは、全て生き神様への供物でございます!」」
「え!?」
領民たちは俺に作物を押し付けて来る。
全部喰え、ということらしい。
「い、いや、せっかくなので、みんなで食べましょうよ」
「なんと、生き神様は私たちにも恵んでくださるのですか!?」
「あなた様はどこまで慈悲深いお方なんですか!?」
「これぞ我らが生き神様です!」
急遽、収穫した作物を使ってどんちゃん騒ぎが開かれることになった。
「生き神様、ここでは貴重なキレイな水でございますじゃ。どうぞお飲みくださいですじゃ」
ソロモンさんが透明な水を持ってきてくれた。
と言っても、何の変哲もない普通の水だ。
「ありがとうございます。貴重なキレイな水って、どういうことですか?」
「この辺りには水源があるんですがな。いつも汚れているのですじゃ」
マジか、そりゃ大変だわな。
「でしたら、早めにその水源ごと浄化しないとですね」
「是非ともお願いしますじゃ! 水分不足でほとほと困っておりましての!」
やがて宴も終わり、俺たちは家に帰ってきた。
「じゃあ、そろそろ寝るかな。お休み、ルージュ」
「お休みなさいませ、ユチ様」
領主として追放されたけど、この調子ならなんとかなりそうだな。
領民たちもみんな良い人そうだし。
むしろ、実家から追い出されて良かったぜ。
俺は心地よい眠りに落ちていく。
……ちょっと待て。
「いや、なんで、俺のベッドに入っているの?」
「それはもちろん、護衛のためでございます」
ルージュは俺にピッタリくっついている。
彼女の部屋もあるはずなのに……。
「やっぱりさ、別々に寝ようよ。だって、俺たちは別に……」
「お断りいたします。お休みなさいませ」
しかし、ピシリと断られてしまった。
すぐさま、ルージュはスヤスヤと寝始める。
こうなると、もうダメだ。
彼女の意思でないと、目覚めることはない。
着任早々、メイドを部屋にたらしこむなんて悪徳領主も甚だしい。
だが、今日はもうしゃーねえ。
その辺は明日なんとかしよう。
そんなことを考えているうちに、いつの間にか俺も寝ていた。
――――――――――――――――
【生き神様の領地のまとめ】
◆“キレイな”死の畑デスガーデン
村の中にある大きな畑。
領民が共同で耕している。
多種多様な作物が育っていたが、瘴気のせいでちっとも収穫できなかった。
ユチの聖域化により本来の貴重な作物が育つように。
成長スピードが異常に速く、ジャングルのような畑。