『私たちエンシェント・ドラゴンは、普段は小さな体で暮らしています。戦う時だけ巨大化するのです』
「ふ~ん、そうなのね」

 コユチを仲間に引き入れて、デサーレチもだいぶ賑やかになった。
 今はエンシェント・ドラゴンのことを教えてもらっている。

「だ、誰か助けてー! どなたかいらっしゃいませんかー!?」

 突然、荒れ地の方から女の人の叫び声が聞こえてきた。

「ん? また誰かが助けを求めてるな」
「ユチ様のお人柄が迷える子羊たちを引き寄せているのでしょう」
「いや、そんな、まさか」

 しまった、裸で出てきちゃった。
 最近は服を着させてくれないことが多いので、裸の感覚に慣れてしまっているのだ。
 村の入り口に行くと、女の人が何人か集まっていた。
 みんな薄汚れていて、衣服がボロボロだ。
 人間より横に尖った耳が印象深い。
 エルフの人達だった。

「どうしたんですか、大丈夫ですか」
「良かった、人がいました! どうか、助けてください! 私はエルフ王国のエルフェアと申します。こちらは侍女の者たちです」
「やっぱりエルフの国の人達でしたか」

 みんな静々とお辞儀をする。
 先頭にいる人は、ずいぶんと儚げな雰囲気だ。
 なんか王女様っぽいのだが、気のせいだよな。

「こんなナリでも王国では姫をやっております」

 マジか。

「実は、魔王軍に囚われていたところを抜け出してきたのです」
「え! ま、魔王軍から……そうだったんですか、それはまた大変でしたね……」

 デサーレチは魔王領と近いから、ここまで逃げ切れたのかもしれない。

「まぁ、まずは休んでください。おいしい食べ物や温かいお風呂もありますよ」
「ありがとうございます……かたじけないです」

 ひとしきり、デススワンプや<ライフウォーター>を振舞ったら、元気が回復したみたいだ。

「……ふぅ、ありがとうございました。おかげさまで体も元気になりました。そして、失礼ですが、ここは何という土地になるのでしょうか? 右も左も素晴らしい作物や素材の宝庫ですが……」
「デサーレチですよ」
「「ええ!? デサーレチ!?」」

 もう何度見たかわからない反応をする。

「この世の最も辛い苦痛をさらに煮詰めたかのような、修羅の土地デサーレチ!?」
「そこに住むと呼吸すらままならないと言われる、あのデサーレチ!?」
「屍の山で築かれたという死者の国デサーレチ!?」

 ルージュがピキピキしてきたので、そろそろ止めた方が良さそうだ。

「そ、それで、事情を話してもらっても良いですかね」
「ゴホン……これは失礼いたしました。ある日、魔王軍が国に来て私を攫ったのです。エルフ王国は古くから魔王軍と敵対関係にありますから、私を人質にでもしようと思ったのでしょう……私たちは、かれこれ数百年は魔王軍と戦っていまして……」

 どうやら、人間の国より魔王軍との戦闘が激しいらしい。
 話を聞いているときだった。

『ゲッゲッゲッ、なんだぁあの村は。こんなところに人里があったのかぁ?』
『バドーガン様、エルフの姫はあそこに逃げたと思われますぜ』

 またもや荒れ地の方が騒がしくなった。

「あれ、また来客か? ……いや、モンスターの群れだ」
「ユチ様、魔王軍尖兵のバドーガンでございます。見ての通り、トロール系のモンスターです。おそらく、エルフェア様を探しに部下たちを引き連れて来たのでしょう」

 先頭にいるのは大きなトロールだ。
 右手にはお決まりの棍棒を持っている。
 体は鎧に覆われており、防御力が高そうだ。
 その周りには部下だろうか。
 ゴブリン、コボルドなどのザコに加え、アイアンガーゴイルやスカルナイトなどの中堅どころも勢揃いしている。
 空にはサンダーワイバーンやファイヤードレイクなんていう強敵までいた。

「よっぽど姫様を奪いたいんだな。ものすごい大群だ」
「荒れ地がモンスターでいっぱいでございます」

 魔王軍のヤツらは、みんな瘴気がグジュグジュにまとわりついている。
 身体の一部にくっついているんじゃなくて、もはや瘴気そのものだな。
 とうとう、魔王軍までがやってきたわけか。

「すみません、ユチ様。私たちが逃げ込んできたばっかりに……」
「いやいや、姫様たちのせいじゃありませんよ。姫様は俺たちが守りますから、安心していてくださいね」
「ユチ様……」
 
 そう言いながら、姫様は頬を赤らめている。
 まずい、さすがに裸で応対するのは良くなかったな。
 ルージュもピキってるから、裸で動き回ることのヤバさを知ってくれたんだろう。
 初めてとなる魔王軍との戦いが、今まさに始まろうとしていた。