「ゲホオオオオ……早く次のポーションを持ってこいいいい! ……ハアハア」

 相変わらず、ポーションやら薬やらが全く効かない。
 もはや、身体強化のポーションで無理やり体を動かしていた。
 一瓶50万エーンの物を一日5、6本のペースで飲んで、ようやく身体が少し動かせる。
 ものすごい勢いでサンクアリ家の資産が減っていく。
 そろそろ、笑い飛ばせなくなってきたぞ。
 こうなったら、使用人の給金を延期するしかない。
 先月も未払いだったが、払えない物は払えない。

「「エ、エラブル様……今月のお給金をまだ頂いていないのですが……というか、先月のお給金はいつ頂けるんでしょうか……」」

 そう思った瞬間、使用人どもがぞろぞろやってきた。
 今月の支払い日から2週間ほど経っている。

「こ、今月の給金も無しだあああ! 来月にまとめて渡すううう!」
「「そ、そんな……!」」

 使用人たちはガーン! と衝撃を受けた。
 と、思いきや、いっせいに突っかかってきた。

「困ります、エラブル様! 毎月頂かないと生活できません!」
「子どもたちのご飯を作ってあげられませんよ!」
「お願いですから給金を払ってください! このデブキノコ!」

 使用人どもが私を取り囲む。
 とんでもない悪口を言われた気がするが、体調不良と人の圧でそれどころじゃなかった。

「「黙れえええ! 黙れえええ! 黙れえええ! 私に対して口答えをするんじゃないいいい!」」
「「うわあっ! 瘴気が!」」

 一斉に使用人どもは後ずさる。
 ふんっ、このザコどもが。
 この私にたてつこうとするな。
 すると、使用人の一人が恐る恐る紙を渡してきた。
  
「エ、エラブル様……フォックス・ル・ナール商会から請求書が届いておりますが……」
「ぬわぁにいいいい!」

 使用人から紙の束を奪い取る。
 気絶しそうなほど、高い金額がびっしり書いてあった。
 

<古代世紀の儀礼箱>
レア度:★8
 古代世紀で特別な儀式の時に使われていたとされる小さな箱。古のドラゴンを復活させるのに必要。クッテネルングは300万エーンで購入した。

<エンシェントドラゴンの血>
レア度:★9
 古のドラゴンと呼ばれるエンシェントドラゴンの血。古代世紀で誰かが採取した。小ビンに保管されている。クッテネルングは700万エーンで購入した。

<エンシェントドラゴンの逆鱗>
レア度:★10
 古代遺跡より発掘された大変貴重な素材。クッテネルングは2000万エーンで購入した。


 知らないうちに、フォックス・ル・ナール商会からレア素材を大量に買っていた。

「いったいこれはなんだああああ!? 誰がこんなに買ったのだあああ!」
「デブキノコジュニア……ではなく、クッテネルング様です!」
「なんだとおおおお!? クッテネルングウウウウ、どこにいるんだああああ! 出てこいいいい!」

 怒鳴りつけると、クッテネルングがフラフラしながらやってきた。

「なんだよぉぉぉ、父ちゃまぁぁぁ」
「この請求書はなんだああああ!」

 目の前に紙の束を叩きつける。
 クッテネルングはバツが悪そうに目を逸らした。
 私はボカりと殴りつける。

「この愚か者おおお! こんな大金を使い込みおってええええ!」
「いたぁぁぁ! なんで殴るんだよぉぉぉ!」

 クッテネルングはびーびー泣いていた。
 ポーション代やら何やらで、今すぐ3000万エーンなど払えん。
 ツケにするしかない。

「どうしてこんな物を買ったのだあああ!」
「そ、それはぁぁぁ、古のドラゴンを復活させるためだぁぁぁ」
「なにいいいい?」
「僕ちゃまの<ドラゴンテイマー>でテイムして、クソ兄者に復讐してやるんだよぉぉぉ。あいつのせいで僕ちゃまは女の子たちから嫌われたんだぁぁぁ」

 クッテネルングはジタバタ足を踏み鳴らしている。
 こいつもゴミ愚息に復讐したいのか。
 ふむ……。 
 〔ジェットブラック〕を送っているから、ユチの死は確定だ。
 だが、万が一のこともある。
 念のため、更なる策略を用意しておいてもいい。
 
「エ、エラブル様……」
「今度はなんだあああ!」

 また使用人がきた。
 何度追い払ってもやってくる。
 こいつらはグールか。

「王宮からの使者がいらっしゃってますが」
「な、なんだとおおお」

 オーガスト王国の貴族は、定期的に王様へ領地の報告をすることになっている。
 そういえば、今日がその日だった。
 ゴミ愚息の嫌がらせを考えていたら、すっかり忘れていた。
 ぐっ……まずいぞ。
 そうだ。
 
「体調不良で行けないと伝えておけええええ!」

 体調が悪いのは事実なのだから、別に問題はないはずだ。
 よし、とりあえず今回は誤魔化そう。

「で、ですが、前回の報告の時も体調不良だと仰られていたような……」

 使用人の言葉に私は固まる。
 しまった。
 そうだった。
 税金を重くしたばかりだったから、前回も体調不良だと断っていたのだ。
 何度も何度も休んでいると、領地経営の適正が無いと判断される。
 領地の没収……ゆくゆくは爵位まで取り上げられる危険まである。

「ぬうううっ……ぐうううっ……」
「エラブル様、早くしないと使者の方がお帰りになってしまいます」
「黙れええええ、そんなことわかっておるわあああ!」

 対策を必死に考える。
 そうだ。

――デサーレチのウワサを確かめる良い機会かもしれないぞ。

 もし、ウワサがウソならば……。 
 私はニタリとほくそ笑む。
 ウソの話を広めたとして、ユチを陥れてやる。 
 万が一にも、〔ジェットブラック〕が失敗することはあり得ないが、念には念を入れておこう。
 ゴミ愚息の逃げ場を完全に無くしておいてやる。
 いや、むしろ……。

――クソユチを詐欺師ということにしてしまおう。

 例えユチがウソを吐いていないとしても、そんなことは後からどうとでもなる。
 よし、筋書きは完璧だ。
 やはり、私は頭が良いのだな。
 
「使者には先に行けと言っておけえええ! お前は馬車を用意するんだああああ!」
「承知いたしました……デブキ……エラブル様」

 適当に準備したら、さっそく馬車に乗り込む。

「デブキ……エラブル様、資料などはご用意しなくてよろしいのでしょうか?」
「黙れえええ! この私に口答えするのかああああ! さああああ、さっさと馬車を出せええええ!」
「わ、わかりました! ……クソッ、絶対に復讐してやるからな」
「なんか言ったかあああ!」
「いえ! 何でもございません!」
 
 王様と王女様の前でユチの化けの皮を剥がしてやる。
 そうすれば、あいつはもうおしまいだ。
 デサーレチでのたうち回って死ぬがいい。
 私は明るい気持ちで王宮へ馬車を走らせた。