「さて、次は盾を構えるようなポーズで……」
「も、もう勘弁してくれ~」
 
 相変わらず、半裸スケッチされている時だった。

「ユチ様! フィギュアが完成しましたよ!」
「生き神様に瓜二つじゃ!」
 
 バーン! と扉が開けられ、アタマリとソロモンが入ってきた。
 いつの間にか、俺のプライベートは欠片も残さず消え去ってしまった。

「では、こちらのテーブルにセッティングいたしましょう」
「承知しました!」
「ワシも手伝うじゃよ!」

 みんなは楽しそうに人形を並べていく。
 
「「おおお~!」」

 パチパチパチと拍手が響き渡る。
 ルージュが嬉しそうに話しかけてきた。

「ユチ様、ご感想はいかがでしょうか?」
「う、うん……良くできてるね……本当に」

 目の前のテーブルには、男の半裸フィギュアが並んでいる。
 どこかで見たような顔だった。
 <ゴーレムの金剛剣>らしきソードを構えているヤツ……。
 <大賢者の杖・量産タイプ>っぽい杖を持っているヤツ……。
 膝を抱えて座っているヤツ……。
 というか、全部俺だ。
 めっちゃ精工にできていて、俺がそのまま1/6の大きさになったみたいだ。

「俺たちの持てうる全ての力を使って、お作りいたしました! お気に召していただけましたか!?」
「ワシはこれ以上ないほど素晴らしい出来だと思いますがの! どうですじゃ、生き神様!?」
「私めは感動して言葉もございません」

 みんな、それはそれは晴れやかな顔をしている。
 大仕事をやり遂げた感でいっぱいだった。

「量産体制も完了し、すでに村中へ配置いたしました! ぜひ見てください!」

 アタマリが興奮した様子で喋る。

「え……」

 絶望した気持ちで家から出る。
 そこかしこに、俺の半裸フィギュアが鎮座されていた。

「そして、このフィギュアは魔力を込めれば動きます!」

 アタマリの言葉に、さらに俺は絶句した。

「……はい?」
「<ウィザーオール魔石>などを砕いて混ぜているので、動かすことができるのです! やってみますね! それ!」

 アタマリが魔力を込めると、フィギュアが動き出した。
 小さくなった俺が裸で踊っているみたいだ。

「「おおお~!」」

 一同(俺以外)、歓喜。

「そのうち、<フローフライト鉄鉱石>なども使って、空を飛べるようにもしましょう!」
「それは素晴らしいアイデアでございます。私めも協力いたします」
「そうじゃ! 村の者たちにも知らせようぞ!」

 みんなが盛り上がっている中、俺は色々諦めていた。
 せめて、服を着たバージョンが作られることを祈る。

「すみませーん。こちらに素晴らしい土地があると聞いてきたのですが、どなたかいらっしゃいませんかー」
「ひ、姫様、お待ちください! もっと慎重に……!」
「大丈夫です。女に大切なのは度胸ですからね」

 入り口の方から、女の人の声が聞こえてきた。
 鈴の音が鳴るような、やけに美しい声だった。

「また来客みたいだ。最近は本当に良く来るなぁ」
「きっと、ユチ様の評判を聞きつけてきたのでしょう」
「ルージュが何を言おうと、今回は絶対に服を着るからね」

 幸いなことに、俺の服はすぐ後ろにあった。
 手を伸ばせば余裕で届きそうだ。

「いいえ、ユチ様。せっかくですので、フィギュアと見比べていただきましょう」
「え? い、いや、ちょっと……タ、タンマ~!」

 半裸のまま引きずられていく。
 来客がチラッと見えてきた。
 お姫様みたいな格好の人と、その侍女みたいなポジションにいそうな人だった。

「な、なんか、王女様っぽい人が来ているんだが」

 屋敷に閉じ込められていた俺でも、王女様の顔くらいは分かる。
 サラサラの銀髪ロングヘアーに、夕日の太陽みたいなレッドの眼。
 くるんとした可愛らしいまつ毛。
 ま、まさか、本物じゃねえよな。
 いや、さすがに違うだろう。
 王女様がどうしてこんなところに来るんだってーの。
 
「あちらにいらっしゃるのは、オーガスト王国のカロライン王女様でございますね。お忍びでいらっしゃったのでしょうか」

 な……に……?
 本物の王女様……だと?
 まずいよ、まずいよ、まずいよ?

「ル、ルージュ、頼むから服を着させてくれ」 
「いいえ、ユチ様の素晴らしさを知っていただく良い機会でございます」
「あっ、ちょっ!」

 あっという間に、カロライン様の前に連れ出されてしまった。
 半裸で。

「こんにちは、突然の訪問失礼失礼します。私はオーガスト王国の王女、カロラインです。あなたが領主のユチ・サンクアリさんですか?」
「は、はい……そうでございますね」

 ……終わった。
 王女様の前に半裸で出てしまった。
 もうこれは監獄行きだな。
 “王女様に裸を見せつけた罪”だ、きっと。

「あの……王宮にいらっしゃらなくて良いんですかね。いないとわかったら、王宮が大騒ぎになると思うんですが……」
「ご心配ありがとうございます。ですが、全く問題ありません。私の分身を置いてきたので」
「え? ぶ、分身……ですか?」
「私はこう見えても、色んな魔法が得意なんですのよ」
「そ、そうなんですか、すごいですね」
「私の分身なので、私にそっくりですわ。まぁ、当たり前なんですけどね。父上もずっと騙されておりますわ」

 カロライン様はウフフフフと上品に笑ってらっしゃる。
 さすがは王女様だ。
 俺より肝が据わっている。
 
「色んな方たちが、あまりにもデサーレチとユチさんの素晴らしさをお話になるので、気になって来てしまったのですわ」
「い、色んな方たちが……ですか?」
「はい。フォックス・ル・ナール商会の会長さんやウンディーネの里からの使者さん、ドワーフ王国のお姫様、オーガスト王国魔法学院の学長さん……最近だと、勇者パーティーの皆さんも話していましたわ」

 いや、マジか。
 みんなデサーレチのことを王女様にも話していたのか。

「私もぜひ見学させていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」
「え、ええ、それはもちろん」

 ということで、カロライン様と侍女を案内することになった。

「これがデスガーデンですね。畑から激レア作物が無限に収穫できます」
「まあ! なんと素晴らしい!」

 カロライン様は口に手を当てて驚いている。
 やがて、領民たちもやってきた。

「生き神様~! またすごい作物が採れましたよ!」
「これも全部、生き神様のおかげですね!」
「俺たちのために、一生懸命領地を良くしてくれて本当にありがとうございます!」

 みんなして、わあわあ嬉しそうだ。

「さ、騒がしくてすみませんね」
「いえいえ、領民に信頼されているのはとても良いことですわ」

 その他、デスリバーやデスマイン、デスドラシエルなどを見せたが、とにかく感嘆していた。
 デススワンプにも入ってもらい、ゆっくり休んでいただいた。
 その都度、領民たちが生き神様~! とやってくるので、少々騒がしかったかもしれなかったな、申し訳ない。
 湯からあがって家に帰り、例の饅頭を食べている時だった。

「それにしても……」

 と、カロライン様は感心したように呟く。

「な、なんでしょうか?」
「ユチさんは、領民から本当に信頼されているのですね。皆さん、ユチさんとお話している時が一番楽しそうですわ。ユチさんのお人形もたくさん並んでいますし」
「は、はぁ、そうなんですかね」

やがて、案内も終わったので、お帰りの時間となった。

「こんな素晴らしいお人形までいただきまして、本当にありがとうございます」

 カロライン様は嬉しそうに俺の半裸フィギュアを抱えている。

「そうだ、良いことを考えましたわ。王宮でこのお人形を流行らせましょう」
「さすがは、カロライン様でございます。これ以上ないほど、素晴らしいお考えでございますね。ぜひ、私めからもお願いいたします」
 
 ルージュとカロライン様はがっしりと握手を交わす。
 互いに心の通じる同志と出逢えて嬉しいようだ。

「それでは、カロライン様。ワシが王都まで転送して差し上げますじゃ。魔法札もあげるから、また来たくなったら破ってくださいですじゃ」
「本当に大賢者のソロモンさんまでいらっしゃるんですね。そんな方まで住んでいるとは、ユチさんの人柄の賜物ですね。ありがとうございます。絶対にまた来ますわ」
「<エンシェント・テレポート>! この者を王都まで転送せよ!」

 ということで、カロライン様は笑顔で転送されていった。

「ユチ様、フィギュア製作の方を急いで進めた方が良さそうでございますね。いずれ、王宮に献上することになるかもしれません」
「ハハハ……そうね……」

 色々疲れて、乾いた笑いしか出なかった。 
 

◆◆◆(三人称視点)


 王宮に戻ったカロラインは、こっそり部屋に入った。
 
「お帰りなさいませ、ご主人様」
「ただいま帰りましたわ、分身さん」

 魔法を解除してベッドに横たわる。

「それにしても、本当に魅力的な方でしたわね」

 カロラインはユチフィギュアを撫でながら呟いた。
 死の荒れ地と知られていたデサーレチをあそこまで発展させるなど、誰にでもできることではない。
 土地の豊かさもそうだが、何よりユチが領民たちから信頼されていることに感動した。
 そして、カロラインはユチが追放された経緯もある程度知っていた。

「デサーレチに追放されたら、逃げ出したく思うのが普通でしょうに……それをあの方は逃げずに領主として発展させたのですよね」

 そうなのだ。
 彼は決して領民たちを見捨てようとしなかった。
 カロラインはその姿勢に感嘆していた。

――ユチさんこそ、この国の次期国王にふさわしいのかもしれませんね。

 フィギュアの方は、お気に入りのポーズは大切に取っておくとして、王宮の令嬢や侍女たちにも見せてあげよう。
 そして、ユチフィギュアは王宮内で密かに流行していくのであった。