「早くしろぉぉぉ! お茶会に遅れたらどうするんだぁぁぁ!」

 今から大事なお茶会だというのに、使用人はちんたらしている。

「し、しかし、本当に出席なさるのですか? クッテネルング様は招待されてないはずでは……それに、お身体の具合が……!」
「うるさいぃぃぃ! 僕ちゃまの言う通りにしろぉぉぉ! 馬車の準備をするんだぁぁぁ!」
「も、申し訳ございません!」

 僕ちゃまが怒鳴りつけると、使用人は慌てて出て行った。
 今日はバロニール男爵家でお茶会が開かれると聞いた。
 招待状はもらっていないが、僕ちゃまは参加できる資格は十分に持っている。
 何と言っても、名誉あるサンクアリ伯爵家の次期当主だからね。 

「さっさと馬車を出せぇぇぇ、このノロマァァァ」
「……承知いたしました。チッ、このデブキノコジュニアがよ」
「何か言ったかぁぁぁ」
「いえ、何でもございません!」

 僕ちゃまが催促して、ようやく馬車が動き出す。
 これから楽しみに待っていた貴族のお茶会だ。
 まぁ、お茶会とは名ばかりに良い結婚相手がいないか探す会だね。
 エフラルちゃんに婚約破棄された傷もだいぶ癒えてきたから、新しい婚約候補を探すのだ。
 だけど、楽しみな反面、心配なこともあった。

――僕ちゃまはモテるからなぁ。
 
 女の子が僕ちゃまを取り合って喧嘩でも起きたらイヤだな。
 結婚できるのは一人だけだし。
 いや、父ちゃまみたいに結婚してからも関係を持てばいいか。
 まったく、モテる男は辛いなぁ。

「デブキノコジュ……クッテネルング様、お屋敷に着きました」

 少しばかり走って会場に着いた。
 貴族向けの馬車がたくさん並んでいる。
 どんなかわいい子がいるのか想像すると胸が高まるぞ。
 屋敷に歩いていくと、初老の執事が出てきた。
 
「いらっしゃいませ。あなたはどちら様でいらっしゃいますか? ……って、瘴気が!」

 僕ちゃまを見て、鼻を押さえている。
 サンクアリ伯爵家に向かって、なんて偉そうなヤツなんだ。

「僕ちゃまはサンクアリ伯爵家のクッテネルングだぁぁぁ! そこをどけぇぇぇ!」
「ク、クッテネルング様ですって!? しょ、招待状の方はお持ちでしょうか!?」

 執事は手で顔を覆っている。
 いい加減にその不敬な態度を直せ。
 
「あるわけないだろぉぉぉ! サンクアリ伯爵家の方が偉いんだぁぁぁ!」
「お身体の具合が悪いようですし、お引き取りいただけますでしょうか……!?」

 進もうとするが、入り口にいた執事が立ちはだかる。

「うるさいぃぃぃ。僕ちゃまに指図するなぁぁぁ。貴様の評判を下げてやってもいいんだぞぉぉぉ」
「あっ、クッテネルング様! ……ぐっ、瘴気がすごくて近寄れない!」

 執事を押しのけずんずん進む。
 庭を進んでいくと、テラスに座っている女の子たちが見えてきた。
 3、4人くらいで集まって、ドレスを見せあっていた。
 
「そちらのドレスはどちらで買われましたの? 花柄の刺繍が素晴らしいでございますわ」
「フォックス・ル・ナール商会の新作ですことよ。一番お気に入りですの」
「最近はフリル少なめのデザインが流行っているそうですわね」

 なんと、エフラルちゃんがいた。
 端っこに座って、ころころ笑っている。
 いつ見ても可愛いじゃないか。
 いや、他の子達もみんな美人揃いだ。
 僕ちゃまを呼ばなかったのは、やっぱり取り合いになってしまうからだろうな。
 そして、少し離れた木の近くに男どもが数人いた。
 まったく、邪魔なヤツらだな。

「エフラル様、あちらの立派な殿方がチラチラ見ていますわよ。エフラル様とお話したいのではなくて?」
「ハンサリム子爵家のご長男、クルード様ではありませんか。お話されてはいかがでしょうか? エフラル様も気になっているんでしょう?」
「そ、それは……」

 エフラルちゃんは顔を赤らめ下を向いてしまった。
 具合が悪いのだ。
 早く僕ちゃまのキスで治してあげなきゃ。

「エフラルちゃんんん、また会えて嬉しいねぇぇぇ」

 エフラルちゃんは僕ちゃまを見ると固まった。
 大きな丸い目をさらに見開いている。
 きっと、僕ちゃまを差し置いて、他の男と仲良くしているところを見られてしまったと思っているんだろう。
 
「大丈夫だよぉぉぉ、僕ちゃまは優しいからねぇぇぇ」

 僕ちゃまは両手を広げて走り寄る。
 いっそのこと、みんなを愛してあげるよ。

「「ぎゃあああ!!」」

 僕ちゃまの姿を見たとたん、みんなが一斉に逃げ出した。

「だ、誰か助けてー! 気持ち悪いー!」
「じいや! じいやー!」
「瘴気まみれの男性が近づいてくるわー!」

 わき目もふらず、一直線に逃げて行く。
 
「待ってよぉぉぉ、どうして逃げるのさぁぁぁ?」

 追いかけていると、エフラルちゃんが転んでしまった。
 膝から血が出ている。
 大変だ、僕ちゃまの唾で消毒してあげないと。
 舌を伸ばして顔を近づける。

「いやーーーー!!」
「エフラルさん! 私の後ろに!」

 と、そこで、男が立ちはだかった。
 僕ちゃまの目の前で両手を広げている。

「貴様は何だぁぁぁ。今すぐそこをどけぇぇぇ」
「私はハンサリム子爵家のクルードです! あなたこそいきなりなんですか! 招待状もなしにやってきて! みんなイヤがっているんですよ!」
「なんだと、このぉぉぉ! サンクアリ伯爵家に向かって、その偉そうな態度はなんだぁぁぁ!」

 怒鳴りつけていると、バロニール男爵家の衛兵が走ってきた。

「おい、貴様はなんだ……うっ、すごい瘴気だ!」
「このままじゃ、ここも汚染されてしまうぞ!」
「今すぐ屋敷から追い出せ! ……ぐっ、瘴気が!」

 使用人が謝りながら僕ちゃまをひきずっていく。
 
「すみません! すみません! 本当にすみません!」
「離せぇぇぇ、どうして僕ちゃまが悪者になっているんだぁぁぁ!」

 押し込まれるように馬車に詰め込まれ、サンクアリ伯爵家に帰ってきた。

「デブキ……クッテネルング様! さすがにあれはまずいですよ!」
「なんだとぉぉぉ!? 貴様ぁぁぁ、僕ちゃまに逆らうのかぁぁぁ!」
「うわぁっ! 瘴気の唾が飛んでくる!」

 使用人は大慌てで逃げて行った。

――クソ兄者のせいで、色んな女の子に嫌われたじゃないかぁぁぁ! もう許さんぞぉぉぉ!

 僕ちゃまは古のドラゴン復活に関する書物を集めまくる。
 偉大なスキル<ドラゴンテイマー>があれば、古のドラゴンですらテイムできるはずだ。
 どうやら、復活には色んなレア素材が必要なようだった。
 だが、何の問題もない。
 どれもこれも、サンクアリ家の資産を使いまくれば容易く手に入る。
 よし! 絶対にクソ兄者を葬り去ってやるぞ!