「うぐっ、こいつはまたすごい瘴気だ」
「とんでもないクソ沼でございますね」
デスドラシエルの森を進んでいくと、瘴気が溜まっている沼に出た。
黒っぽくドロドロしていて見るからに汚い。
後ろをついてきた領民たちもタジタジだ。
「うげぇ……あんなに瘴気が溜まってやがる」
「ここもずいぶんと酷いですね。近寄ることすらできません」
「生き神様がいらっしゃらなかったら、どうなっていたかわからないぞ」
その辺りだけ木々は枯れはて虫一匹いない。
沼はデスリバーの水源地より、やや大きいくらいかな。
森の中にこんなところがあるなんてなぁ。
そして……。
「瘴気もすごいんだが、なんか熱い気がするぞ」
「これはただの沼ではないようですね。熱湯のようでございます」
沼はブシュゥ……ブシュゥ……と瘴気を吹き出しているだけじゃなくてグツグツしている。
ルージュの言うように、大鍋でお湯を沸かしているみたいだった。
「入ったら火傷しそうだな」
「ユチ様、あちらをご覧くださいませ」
「ん?」
沼の真ん中あたりに瘴気が一番集まっている。
「あそこが中心のようでございますね」
「う、うむ、そうだな」
――ちょっと待て、この流れは……。
「では、ユチ様、服の方を脱いでいただいて……」
「タ、タンマ! 裸で入ったら火傷しちゃうよ!」
沼はグツグツしているし、熱そうな湯気まで出ていた。
火傷もそうだが、また別の心配がある。
せっかく服を着てきたのに、結局脱がされるのは避けたいぞ。
「ご心配には及びません。ユチ様、沼の近くで聖域化なさってくださいませ。そうすれば火傷にはなりません」
「ぬ、沼の近く? わ、わかった」
沼の端っこに近づいて魔力を込める。
<全自動サンクチュアリ>発動!
瞬く間に、俺の周囲が浄化された。
淵に近いところの黒いドロドロは消え去り、白く濁ったお湯に変わった。
「なんか白くなったぞ」
「ちょっと触らせていただきます」
「あっ! ど、毒とかあったら……!」
「大丈夫でございます。例えあったとしても、ユチ様のおかげで浄化されております」
ルージュが何のためらいもなく手を突っ込む。
さすがは元Sランク冒険者だ。
度胸があるんだなぁ。
「ユチ様、ちょうどいい湯加減でございますよ」
「なに?」
俺も恐る恐る沼に手を入れてみる。
あったかくて気持ち良かった。
「へぇ~お風呂みたいだな」
「ここから浄化を進めていけば火傷などいたしません」
「確かに」
やっぱりルージュは頭が良いなぁ……いや、これは……!
「では、さっそく服もお脱ぎくださいませ」
ま、まずい。
デスリバーの時と同じだ。
案の定といった展開になってしまった。
「い、いや、底なし沼かもしれないし! そうだ、アタマリたちに舟でも作ってもらおうよ! その方が……!」
と、そこで、ルージュがやたらと長い木の枝を拾い上げた。
ズドドドドッ! と沼の底を突きまくる。
「ユチ様、底なし沼ではないようです」
「そ、そうすか」
なんでそう都合よく、長い木の枝が転がっているのか。
俺はもう色々諦めていた。
力なく服を脱ぐ。
せめて、ルージュに脱がされるのだけは回避しよう。
「おぉ……生き神様の肉体は本当に素晴らしい……」
「神々しいオーラが出ているぞ」
「できれば、毎朝あのお姿を拝見したいなぁ」
領民たちに見られながら沼へ浸かる。
もうしょうがないので、ずんずん中心へ向かう。
こうなったら、さっさと浄化させちまおう。
恥ずかしいから。
俺の歩いたところが、あっという間に白いお湯に変わっていく。
アタマリたちのむせび泣く声まで聞こえてきた。
「くぅぅぅっ! ユチ様の御業はいつ見ても、常に素晴らしい! 俺たちの心を浄化してくださった時もあんな感じだったんだろうよ!」
「心が満たされていくのを感じるぜ!」
「あのような清く正しい人にずっとついていくのが、俺の人生の目標だ!」
やがて、沼の中心に着いた。
でーん! と大きな瘴気が我が物顔で浮かんでいる。
心なしか、俺のことを見下しているような気がした。
裸の男が何しに来た、といった感じだ。
お前のせいで脱がされたんだぞ。
<全自動サンクチュアリ>発動!
『ギ! ギギギギ……!』
予想外の攻撃だったのか、瘴気が苦しそうに震えている。
頼むから早く消えてくれよな。
『ギギギギギ……キャアアアアアア!』
瘴気の塊はあっけなく消え去ってしまった。
そしてその直後、沼の様子が一変した。
黒いドロドロが無くなり全部が全部、白くて濁ったキレイなお湯になった。
湯加減もちょうどいい。
「ユチ様! 最高の御業でございます! 私めも感動いたしました! 皆さま、拍手でお称えくださいませ!」
ルージュの合図で、わあああ! と盛り上がる。
何はともあれ、浄化が済んで良かったな。
<死の沼デススワンプ>
レア度:★10
浸かるだけであらゆる傷や病が治癒する沼。湯から上がっても一定期間(体が冷めるまで)は、肉体が<ゴーレムダイヤモンド>並みに強靭となる。ほど良い熱さ。
マジか、これもレア度10かよ。
デサーレチは宝の宝庫じゃねえか。
なんかもう色々すごすぎて、あまり驚かなくなってきたぞ。
さて、もう出るかな。
無事浄化は終わったわけだし。
俺がデススワンプから出ようとしたら、ルージュに止められた。
「ユチ様、もう少しお入りくださいませ」
「え? ど、どうして? もう瘴気は消えたのに……」
「ユチ様の成分を溶かし込んでほしいのです!」
「お、俺の成分? いったいなにを……?」
ルージュが叫んだとたん、領民たちが集まってくる。
「生き神様! ぜひ、成分を溶かし込んでください! 俺たちは少しでも生き神様に近づきたいんです!」
「そうですよ! せっかく少しは生き神様の成分が入ったのに、ここでやめたらもったいないですって!」
「生き神様の成分が入っているなんて、聞いただけで癒されます!」
みんなしきりに、俺はまだ湯に浸かっていろと言ってくる。
「あ、あの、ちょっ、俺の成分って言ったって別にそんな……」
「「さあ、みんなで生き神様を称えよう! この沼は神聖な場所として崇めるんだ! 全世界でここにしかない聖なる沼だ!」」
どんちゃん騒ぎが始まってしまい、完全に出るタイミングを失った。
「皆さま、大変な喜びようでございますね! 私めもユチ様の成分に浸かれるなんて、今から楽しみでございます!」
「……う、うん、そうだね」
ここまで来たら、もうどうしようもない。
森が歓喜の声に包まれる中、俺はいつまでも一人で沼に浸かっていた。
――――――――――――――――
【生き神様の領地のまとめ】
◆“キレイな”死の沼デススワンプ
デスドラシエルの森にある温かい沼。
白色でやや濁りがあり、てろんとした滑らかな水質。
瘴気に汚染されとんでもなく汚れていたが、ユチのおかげで本来の姿を取り戻した。
季節に関係なく一定に温かい。
ユチの成分も溶け込み領民たちは大喜び。
「とんでもないクソ沼でございますね」
デスドラシエルの森を進んでいくと、瘴気が溜まっている沼に出た。
黒っぽくドロドロしていて見るからに汚い。
後ろをついてきた領民たちもタジタジだ。
「うげぇ……あんなに瘴気が溜まってやがる」
「ここもずいぶんと酷いですね。近寄ることすらできません」
「生き神様がいらっしゃらなかったら、どうなっていたかわからないぞ」
その辺りだけ木々は枯れはて虫一匹いない。
沼はデスリバーの水源地より、やや大きいくらいかな。
森の中にこんなところがあるなんてなぁ。
そして……。
「瘴気もすごいんだが、なんか熱い気がするぞ」
「これはただの沼ではないようですね。熱湯のようでございます」
沼はブシュゥ……ブシュゥ……と瘴気を吹き出しているだけじゃなくてグツグツしている。
ルージュの言うように、大鍋でお湯を沸かしているみたいだった。
「入ったら火傷しそうだな」
「ユチ様、あちらをご覧くださいませ」
「ん?」
沼の真ん中あたりに瘴気が一番集まっている。
「あそこが中心のようでございますね」
「う、うむ、そうだな」
――ちょっと待て、この流れは……。
「では、ユチ様、服の方を脱いでいただいて……」
「タ、タンマ! 裸で入ったら火傷しちゃうよ!」
沼はグツグツしているし、熱そうな湯気まで出ていた。
火傷もそうだが、また別の心配がある。
せっかく服を着てきたのに、結局脱がされるのは避けたいぞ。
「ご心配には及びません。ユチ様、沼の近くで聖域化なさってくださいませ。そうすれば火傷にはなりません」
「ぬ、沼の近く? わ、わかった」
沼の端っこに近づいて魔力を込める。
<全自動サンクチュアリ>発動!
瞬く間に、俺の周囲が浄化された。
淵に近いところの黒いドロドロは消え去り、白く濁ったお湯に変わった。
「なんか白くなったぞ」
「ちょっと触らせていただきます」
「あっ! ど、毒とかあったら……!」
「大丈夫でございます。例えあったとしても、ユチ様のおかげで浄化されております」
ルージュが何のためらいもなく手を突っ込む。
さすがは元Sランク冒険者だ。
度胸があるんだなぁ。
「ユチ様、ちょうどいい湯加減でございますよ」
「なに?」
俺も恐る恐る沼に手を入れてみる。
あったかくて気持ち良かった。
「へぇ~お風呂みたいだな」
「ここから浄化を進めていけば火傷などいたしません」
「確かに」
やっぱりルージュは頭が良いなぁ……いや、これは……!
「では、さっそく服もお脱ぎくださいませ」
ま、まずい。
デスリバーの時と同じだ。
案の定といった展開になってしまった。
「い、いや、底なし沼かもしれないし! そうだ、アタマリたちに舟でも作ってもらおうよ! その方が……!」
と、そこで、ルージュがやたらと長い木の枝を拾い上げた。
ズドドドドッ! と沼の底を突きまくる。
「ユチ様、底なし沼ではないようです」
「そ、そうすか」
なんでそう都合よく、長い木の枝が転がっているのか。
俺はもう色々諦めていた。
力なく服を脱ぐ。
せめて、ルージュに脱がされるのだけは回避しよう。
「おぉ……生き神様の肉体は本当に素晴らしい……」
「神々しいオーラが出ているぞ」
「できれば、毎朝あのお姿を拝見したいなぁ」
領民たちに見られながら沼へ浸かる。
もうしょうがないので、ずんずん中心へ向かう。
こうなったら、さっさと浄化させちまおう。
恥ずかしいから。
俺の歩いたところが、あっという間に白いお湯に変わっていく。
アタマリたちのむせび泣く声まで聞こえてきた。
「くぅぅぅっ! ユチ様の御業はいつ見ても、常に素晴らしい! 俺たちの心を浄化してくださった時もあんな感じだったんだろうよ!」
「心が満たされていくのを感じるぜ!」
「あのような清く正しい人にずっとついていくのが、俺の人生の目標だ!」
やがて、沼の中心に着いた。
でーん! と大きな瘴気が我が物顔で浮かんでいる。
心なしか、俺のことを見下しているような気がした。
裸の男が何しに来た、といった感じだ。
お前のせいで脱がされたんだぞ。
<全自動サンクチュアリ>発動!
『ギ! ギギギギ……!』
予想外の攻撃だったのか、瘴気が苦しそうに震えている。
頼むから早く消えてくれよな。
『ギギギギギ……キャアアアアアア!』
瘴気の塊はあっけなく消え去ってしまった。
そしてその直後、沼の様子が一変した。
黒いドロドロが無くなり全部が全部、白くて濁ったキレイなお湯になった。
湯加減もちょうどいい。
「ユチ様! 最高の御業でございます! 私めも感動いたしました! 皆さま、拍手でお称えくださいませ!」
ルージュの合図で、わあああ! と盛り上がる。
何はともあれ、浄化が済んで良かったな。
<死の沼デススワンプ>
レア度:★10
浸かるだけであらゆる傷や病が治癒する沼。湯から上がっても一定期間(体が冷めるまで)は、肉体が<ゴーレムダイヤモンド>並みに強靭となる。ほど良い熱さ。
マジか、これもレア度10かよ。
デサーレチは宝の宝庫じゃねえか。
なんかもう色々すごすぎて、あまり驚かなくなってきたぞ。
さて、もう出るかな。
無事浄化は終わったわけだし。
俺がデススワンプから出ようとしたら、ルージュに止められた。
「ユチ様、もう少しお入りくださいませ」
「え? ど、どうして? もう瘴気は消えたのに……」
「ユチ様の成分を溶かし込んでほしいのです!」
「お、俺の成分? いったいなにを……?」
ルージュが叫んだとたん、領民たちが集まってくる。
「生き神様! ぜひ、成分を溶かし込んでください! 俺たちは少しでも生き神様に近づきたいんです!」
「そうですよ! せっかく少しは生き神様の成分が入ったのに、ここでやめたらもったいないですって!」
「生き神様の成分が入っているなんて、聞いただけで癒されます!」
みんなしきりに、俺はまだ湯に浸かっていろと言ってくる。
「あ、あの、ちょっ、俺の成分って言ったって別にそんな……」
「「さあ、みんなで生き神様を称えよう! この沼は神聖な場所として崇めるんだ! 全世界でここにしかない聖なる沼だ!」」
どんちゃん騒ぎが始まってしまい、完全に出るタイミングを失った。
「皆さま、大変な喜びようでございますね! 私めもユチ様の成分に浸かれるなんて、今から楽しみでございます!」
「……う、うん、そうだね」
ここまで来たら、もうどうしようもない。
森が歓喜の声に包まれる中、俺はいつまでも一人で沼に浸かっていた。
――――――――――――――――
【生き神様の領地のまとめ】
◆“キレイな”死の沼デススワンプ
デスドラシエルの森にある温かい沼。
白色でやや濁りがあり、てろんとした滑らかな水質。
瘴気に汚染されとんでもなく汚れていたが、ユチのおかげで本来の姿を取り戻した。
季節に関係なく一定に温かい。
ユチの成分も溶け込み領民たちは大喜び。