「さて、デサーレチの瘴気はもう全部浄化しきれたのかな」

 いつものごとく、ルージュに半裸マッサージされている。
 今まではスキルを使った後が定番だった。
 だが、もはやは朝昼晩と最低3回が定着しつつある。
 おかげで疲れは全くたまらないのだが、せめて服を着させてほしい。

「もうほとんど瘴気はないと思いますが、念のため確認してみてはいかがでしょうか」

 確かに、ルージュの言う通りだ。
 瘴気は取り残すと面倒くさいからな。
 また巣みたいのができることもあるし。
 大本の瘴気は<全自動サンクチュアリ>で浄化できた。
 だが、残っているヤツがいるかもしれん。
 
「一応見回りしておくか。領民や作物に悪い影響があるとまずいしな」
「私めもお供いたします。それにしても、ユチ様は本当に聡明な方でございますね。こんなにもデサーレチの人々のことを考えてらっしゃるなんて……」
「ほ、ほら、泣くほどのことじゃないからね……」

 ルージュは大袈裟に泣いている。
 そんなに褒められるようなことでもないんだが……。
 領民のことを考えるのは領主として当たり前だしな。
 特に来客とかはいないようで、今回は服を着られた。
 俺は心底ホッとする。
 ルージュと一緒に屋敷から出て行く。

「私が今こうして楽しく暮らしていられるのも、全てはあの時ユチ様が助けてくださったからでございます」
「え? あ、ああ、あれね……」

 ルージュは俺の父親が連れてきた。
 どうやら、その見た目を気に入ったようで、やたらと身の回りの世話をさせていた。
 ところが、父親はアレなので、無理矢理自分の部屋に連れ込もうとしたことがあった。
 で、阻止したのが俺。
 それ以来、屋敷内の風当たりはさらに強くなったわけだが、彼女が無事だったから別にどうでもいいんだよな。

「この御恩は一生をかけてお返する所存でございます」
「まぁ、これからも楽しくやっていこう」
「ユチ様……」

 ということで、さっそく村を歩き始めたわけだが。

「どこらへん探せばいいかな?」

 デサーレチは広いから、ある程度検討をつけておきたい。

「歩き疲れに関してはご心配には及びません。私めがすかさずケアいたしますので」
「いや、まぁ、そういうことじゃなくてね」

 村を歩いているとアタマリたちがいる。
 結構朝早いのにもう働いていた。
 心の底から仕事が楽しいようだ。
 
「ユチ様! おはようございます! 今日も素晴らしい佇まいでいらっしゃいますね! お前ら、ユチ様がいらっしゃったぞ! 礼っ!」
「「おはようございます! 毎日仕事をさせていただいて、ありがとうございます!」」

 例のごとく、とんでもなく規律正しいお辞儀をされる。
 
「そ、そういうのは本当に言わなくていいから……って、あれ? あの建物はなんだ? 新しく作ったの?」

 恐縮していると、彼らの後ろにある建物に気づいた。
 まるで、背が高い塔のようだ。

「はっ! こちらは物見やぐらでございます! <ガラスクラブ>の素材を使った望遠鏡も備えておりますので、デサーレチ全体が見渡せます!」
「へぇ~、物見やぐらか。便利な建物を作ってくれたね」
「はっ! 身に余るほどのお言葉でございます! ユチ様のためならば、どんな物でもお造りいたします!」

 アタマリたちはビシーっとお辞儀する。

「ユチ様のおかげでデサーレチは発展しておりますから、モンスターなどに襲われる危険性もございますね。見張りの方を配置してもよろしいかもしれません」
「ふむ……」
 
 この前はメガオークがうろついていた。
 荒れ地には元々モンスターも多いし、忘れられがちだが魔王領も近いんだよな。
 いずれ、武器とか防具とかも揃えた方がいいかもしれん。
 
「ちょっと使ってもいいか? デサーレチの全体を見たいんだ」
「はい! それはもちろん! どうぞお使いください! お前ら! ユチ様をご案内しろ!」

 アタマリたちに連れられ、やぐらを登る。
 さすがは優秀な鍛冶職人のようで、スイスイ上に行けた。
 登り切ってみると、なかなかの高さだった。

「すげえ、結構遠くまで見渡せるぞ」
「見渡す限り全ての領地がユチ様の物でございます」

 と、そこで、森の中に瘴気の塊が見えた。
 デスドラシエルのあった森だ。
 森全体の瘴気はデスドラシエルを浄化したら一緒に消えた。
 だが、その一角だけヤツらが残っている。

「あそこに瘴気がたくさんいるな。あいつらはしっかり浄化しといた方が良さそうだ」
「他には特になさそうでございますね。瘴気らしき影は見当たりません」

 瘴気が溜まっているのは森の一角だけだ。
 ルージュの言う通りみたいだな。

「じゃあ、さっそく向かうとするか。あっ、だからといって、領民たちは呼ばなくてい……」
「デサーレチの皆さま! ただ今より、ユチ様が御業を披露してくださいます! どうぞ、一緒に来てくださいませ!」

 ルージュが声を張り上げたとたん、家のドアが一斉に開かれた。
 元々声が良く通る上に、俺たちはやぐらの上にいる。
 村全体に聞こえたのは間違いない。
 まぁ、何となくそんな予感はしていたがどうしようもなかったんだ。

「みんな起きろ! 生き神様の御業のお時間だ! 朝から見せてくださるみたいだぞ!」
「今日はなんて素晴らしい日なんでしょう! 今からワクワクしてきてしまいましたわ!」
「寝ているヤツは全員起こすんだ! 生き神様のお力が見れないなんて、大損もいいところだぞ!」

 瞬く間に、領民たちが集まってくる。
 みんな本当に嬉しそうな顔をしていた。
 お祭り騒ぎになりつつある始末だ。

「ではユチ様、降りてくださいませ。皆さまがお待ちでございます」
「う、うむ」
「「うおおおお! 生き神様が降臨なさったぞー!」」

 ただ物見やぐらを降りただけなのに、すごい称賛されてしまった。

「じゃ、じゃあ、デスドラシエルの森へ行きますかね」
「「はい! どこまでもお供いたします!」」

 というわけで、領民たちを引き連れて森を目指す。
 いつもの展開となってしまったわけだが、俺は安心していた。
 何はともあれ、今回は服を脱ぐことにならなくてよさそうだからだ。
 沼に入るわけでもあるまいしな。